無理やり私に吐かせたくせに、まずいことを聞いたとばかりに男性はわかりやすくうろたえた。

 夜の浜辺でお酒を飲み、指輪を海に投げ捨てる女。
 私がどういう状況なのか想像がついたのだろう。


「あの、自殺は本当に誤解ですからね? 迷惑はかけてしまいましたけど、私、大丈夫ですから」

「俺が後日、明るい時間に探しときますよ。どんな指輪ですか?」


 思わず自分の耳を疑った。この人がいくら親切なのだとしても、そこまでしてもらうわけにはいかない。


「いえいえ! 大事なものとかじゃないんです。本当です。海に物を捨ててごめんなさい。反省してます!」


 とうとうと喋る私に圧倒されたのか、男性が吹き出すようにフフッと笑ってうなずいた。


「俺、海上保安官なんです。もし見つけたら俺が回収しとくってことで」


 海上保安官……
 だから海に入ってきてまで私を止めようとしたのかと、急に彼の一連の行動に合点がいった。


「ていうか、服がめちゃくちゃ濡れちゃいましたね」

「……それはあなたも」


 ロングスカートの裾をたぐりよせてギュッと絞れば、布地に吸い込まれていた海水がボトボトとしたたり落ちる。
 彼の履いているジーンズも同じように濡れていてずいぶん重そうだ。