やっぱり時間が過ぎるのは早い。
もうあと3ヶ月しかない。
匠くんと付き合えない。
そんなことを考えながら授業を受けていると
「心乃ちゃん!ねえ、僕だよ!天使!」
と、小さい声で天使が話しかけてきた。
「何?授業中だよ」
私も小声で返事をした。
「なんか暗そうな顔してたからさ、何かあったのかなって」
心配そうな顔の天使がやっぱり愛おしい。
でも授業中に悩み相談はいくらなんでもおかしい。
「うん、後で話すから今はちょっと待って」
すると天使が残念そうな顔をして「はーい」
と返事をした。

授業が終わって昼休み。
私はいつも誰も来ない空き教室で朝自分が作ったお弁当を食べている。
みんな友達と机を合わせて喋りながら食べているけど私にそんな友達はいない。
「天使〜」
「はい!うわ〜!今日作ってたお弁当だ!美味しそー」
天使が目を輝かせている。
「そんなすごいもんじゃないから」
そう答えたが本当は少し嬉しかった。
誰かに自分で作った料理を『美味しそう』
なんて言われたのは初めてだ。
「ひと口だけちょーだい!」
あまりにも愛おしい笑顔で言うのでひと口だけあげることにした。
「え、美味しすぎる!今まで食べてきたものの中で1番かも!」
嬉しい。
素直に嬉しかった。
褒められたことなんか1度もなかった。
天使がお世辞で言ってたとしてもほんとに嬉しかった。
「ほんと!?嬉しー!」
思わずそういうと天使から予想外の答えが返ってきた。
「お、意外と素直じゃん」
自分でもこんなに喜んだのは初めてだとわかったけどそんなに素直に見えていないのか。
「あっ、そうでもないか、心乃ちゃん結構素直だ。よく考えると。」
天使は何を言っているんだろう。
自分も分からなくなった。私は素直なのか素直じゃないのか。
でも自分的には素直じゃない方だと思う。
小さい頃お母さんとお父さんに怒られても素直に謝れなかった。
「素直だと思う。心乃ちゃん。」
天使が少し考えながらそう言った。
「え、なんで?」
「だってさちゃんとありがとうって言えるじゃん。素直じゃない子はありがとうって言うのが恥ずかしいっていうか」
「私、ありがとうなんて天使に言ったっけ?」
全く覚えていない。天使に助けられた時後で話聞くからと言われその場でありがとうを言えなかったりしたと思う。
「心乃ちゃんが苦しくなった時とかスクールカーストの話した時とかありがとうって言ってたよ」
自分では覚えていないけど多分心が動いていたから流れるように口にしたのだろう。
「だから、心乃ちゃんは素直だと思う。素直って素敵な事だよ!
あっ、もう一口ちょーだい!」
頭の整理が追いつかなかったけどとりあえずもう一口天使にお弁当をあげた。

すると廊下から声がしてきた。
「てかさ病気だからって体育休んだりすんのうざくね?」
「それな、しかもブスだし勉強できないし」
「ほんとそれー」

これは私の悪口だ。
会話を聞いただけでわかる。
匠くんのグループの声。
どんどんこちらに近ずいてくる。
私と天使がいる教室の前を通った時
「え、心乃だ」
「おっ、噂をすれば」
と笑いながら話していた。
どんどん声が遠くなってった。
匠くんが私の悪口を言って笑っていた。
嫌われたんだ。
私にはあと3ヶ月しかないのに、と心が叫んでいた。
「天使、」
かすれた声で天使をよんだ。
「辛いね。でもタイムリミットは3ヶ月もあるよ」
「3ヶ月しか、だよ。私、どうすればいいの」
「前にも言ったけど大体は周りに流されてるだけだから匠くんもきっとそうだよ」
その言葉に少し安心した。
その夜、天使と一緒にどうやったら匠くんと付き合えるか作戦会議をした。
作戦会議の時、天使が真剣に考えてくれてほんとに嬉しかった。