相変わらず葵さんの部屋は綺麗に片付いている。
コーヒーの匂いがしたから、コーヒーが出てくるのかと思ったら、紅茶が出てきた。
「コーヒー苦手でしょ?」
「えっ、なんで…」
「この前コーヒー飲んでたとき、変な顔してた」
葵さんはそう言いながら少し笑う。
笑った顔もかっこいい。
私のこと、ちゃっかり見てたのか…
なんか恥ずかしい。
というか私変な顔してたかな…
葵さんが淹れてくれた紅茶はフレーバーティーだった。
私は紅茶が大好きで、年中紅茶ばかり飲んでいる。
そんな訳で紅茶には少々うるさい。
どれどれ、とカップに口を付ける。
完璧だった。
お湯の温度から茶葉の蒸らし具合、カップの温かさまで、全てが完璧だった。
しかもこの紅茶は、人気紅茶専門店の限定フレーバーだ。
「お…美味しい」
葵さんを見ると、誇らしげな顔をしている。
「この紅茶、シャノアールの限定品ですよね?」
葵さんはよくぞ聞いてくれたと、自信満々に頷く。
「紅茶好きなんですか?」
「うん。けどコーヒーも好きで、コーヒー飲むことのが多い」
見ると、テーブルにはコーヒーが置かれている。
「紅茶好き?」
「はい!すごく好きです!休みの日に紅茶屋さん巡りするくらい、紅茶が好きです!」
そう言うと、葵さんはキッチンに戻り、棚の中をゴソゴソし始めた。
数分すると大量の紅茶を抱えた葵さんがリビングに戻ってきた。
「好きなの飲んで」
見ると、有名店の紅茶やオーソドックスな紅茶、期間限定の紅茶など、色々なものがある。
まさに宝の山だ。
「ありがとうございます!じゃあ、ケーキ食べながらいっぱい飲みます。ケーキもいっぱいありますよ」
そう言い箱からケーキを出す。
「あ、このケーキ…ずっと食べたかったやつ。」
葵さんが見つめる先には期間限定『マロンショコラモンブラン』がある。
どうやら葵さんはモンブランが好きらしい。
二人きりの時間は気まずいものになると思っていたけど、予想外の紅茶談義で話が弾む。
「俺、気になってる紅茶があるんだけど…ここのカフェの紅茶、飲んだことある?」
葵さんのスマホを覗き込む。
【メイプルショコラストロベリー!マカロンモンブランティーパック付き〜ラブラブカップル土日限定〜※数には限りがあります】
「私も気になってたところです!ストロベリーの味と甘みが強くて美味しいらしいですよ。あとオマケのティーパックもかなり美味しいらしいです」
ここのカフェの紅茶は評判がよくて飲みたいと思っていた。
でもなぜかカップル限定なのだ。
しかも『ラブラブ』な。
「へー、ストロベリー味の紅茶って爽やかな風味が多いのに、甘いなんて珍しい」
「そうなんですよ!だから気になってるのに…ラブラブカップルじゃないと飲めないなんて、いい迷惑です!」
すると葵さんは
「カップルで入れば飲めるなら、俺と一緒に入れば飲めるってこと?」
と言い始めた。
まあカップルで入ればいい訳だから、男女関係なくふたり組であればいいのかもしれない。
けど、このカップルには『ラブラブ』でなければいけないという制約がある。
「飲めるかもしれないですけど…ラブラブじゃないとダメみたいですよ…?」
「ラブラブなフリすればいいんでしょ?」
葵さんは不敵な笑みを浮かべた。
結局、葵さんとふたりで今度の週末にカフェに行くことになった。
大丈夫なのだろうか。
少し不安だ。
※※※
「ただいまポタ〜」
「おかえり」
「ましろちゃん来たポタか?」
「うん」
「葵くん、なんか楽しそうポタね〜」
「そんなことないけど」
「ポタ〜(いい調子ポタね〜)」