よく見れば綺麗な顔つきをしているし、背も高く細身でスーツが似合っている。もし新人研修後の成瀬があのまま東堂商事で仕事に就いていたら、バリバリ業務もこなしていただろう。社内でもトップクラスのイケメン扱いをされてそうだし新人時代は年上のお姉様達から可愛がられ、今ならプラス年下の後輩ちゃん達から憧れられる存在だったのかもしれないな。……などと思ったら胸が苦しくなった。

「真尋様?」
「……っ」

 成瀬に名を呼ばれ鼓動が激しくなり。耐えられなくなったわたしは、揺れている成瀬の瞳に引き寄せられるように顔を近づけ唇を重ねた。
 微かに触れた唇は瞬時に離され、驚きを隠せない表情を浮かべた成瀬が目の前にいる。

「あ、いやあの……えっと。うん、なんかしてみたくなっただけよ? 今日仕事が一緒だった受付の子達と休憩中にね……」

 成瀬の反応に、なんだか悪い事をしたような気分になり明らかに取り繕うような大嘘をついた。経験話から、どんな味だのどんな雰囲気の中でしただの。未経験のわたしには未知の世界で、なのに流れ的にわたしも経験豊富みたいな嘘をついてしまった為、取り敢えずキスがどんなものか経験してみたくなったのだと嘘を並べ立てた。