最近のわたしは少しおかしい、と自分でも薄々感じている。日中、受付の仕事をしている間は当然成瀬と別行動しているのだが。仕事中、嫌なことがあると成瀬の顔が見たくなったり成瀬に話を聞いてもらいたくなるのだ。

「どうかなさいましたか?」
「べっ別に」

 用意された足湯用の樽に両足を浸ける。適温に調節されたお湯に足先から温まっていく。

「はぁ、温かくて気持ちいい。それにいい香りね」
「今日はレモングラスとオレンジ、イランイランがブレンドされた精油です」
「わたしこの香り好き」
「よかったです。失礼いたします」

 成瀬の右手が踵を支え左手がふくらはぎに添えられ少し持ち上がると、樽の中の湯をすくった右手で足元から徐々に脛へと湯をかけていく。成瀬の指先から落とされる湯がわたしの脛を伝い樽へと流れて戻り、そして再び成瀬の手にすくわれ繰り返される。

「聞いて。昼間ね、受付に来るなり威張り散らして、わたし達受付の子を怒鳴りつける人がいたのよ。取引先の人だったみたいだけど、いくらクライアントでも酷いと思わない? 一応マニュアル通りに対応したけど、受付の女の子に対して横柄で横暴な社員を雇っている会社とは縁を切った方がいいと思うわ。成瀬もそう思うでしょ?」
「それは大変でしたね」