「さぁ、行こうか」

 自然と腰に手を回してきてエスコートする翔斗さんは、女性慣れしているのだろう。慣れた手つきで玄関ドアを開け、横付けしてあった愛車の助手席にわたしを座らせた。

「助手席……初めて座ったかも」
「そうなの? 社会人になった今でも、誰かが運転する車の助手席に乗ったことないの?」
「ないわ。受付は基本社内勤務だから営業課のように外回りなんてないし、送迎は執事の成瀬が運転する車だし」
「へぇ。家と会社の往復のみじゃ、悪いことも出来ないね」
「悪いこと?」
「例えば寄り道とか。仕事帰りに一杯、合コン、買い物、デート等など」
「あー……」

 言われてみればそうかも。けれど、今迄なんの不満も支障も無かったし。わたしにとっては、それが当然というか普通のことだけど。世間一般では違うのだろうか。

「違うよー。いい歳した女が真っ直ぐ家に帰るなんて、つまらないでしょ」