「なんでもない。ひとりにしてって言ったのに、どうして追いかけてきたのよ」
「ひとりにはできません。泣いているなら、尚更です」
「……カッコつけちゃって。ムカつくなぁ」
「そうですか? 本心ですが」
「じゃあハグして。ギューッてしてほしい」

 はい。と成瀬に向かい両手を広げてみせる。
 一歩近付いた成瀬は、わたしの背中に手を回しフワリと抱き寄せた。

「……こんな感じでよろしいですか?」

 成瀬の胸元に当たっている耳越しに声が聞こえ、ゼロ距離だと意識してしまい成瀬の背中に腕を回して抱きしめ返す。

「うん。少しこのままでいて」
「はい」

 瞼を閉じれば、トクントクンと成瀬の鼓動が聞こえている。成瀬の腕の中は本当に安心できる場所だ。
 この場所が大好きで、何時までもわたしだけの場所であってほしい。
 成瀬の胸に顔を埋めると、今まで意識していなかった気持ちが溢れ出す。

「……成瀬、好き」