要らないわけない。絶対に必要なのに。どうしてわざわざそんなことを聞くのよ。
成瀬の言葉を否定するには、このドアを開け泣き崩れた顔を晒さなければいけない。
 けれど「必要ない」なんて答えたら、成瀬はわたしから離れてしまうかもしれない。
 ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開ける。目の前には成瀬のスーツが飛び込んだ。
 見上げると、いつもと変わらない成瀬の顔があって。黒目がちの瞳でわたしを見下ろしている。
 顔を覗き込まれ、涙を拭う親指の腹が頬を滑る。同じように涙を拭って貰ったことは何度もあるはずなのに。
 今のわたしは、成瀬が傍にいてくれることに安堵している。

「あまり泣き続けますと瞼が腫れてしまいます」
「だっ、て……成瀬が」
「私が?」

 言いかけて口を噤む。わたしより向井の方がいいの? 向井が好きなの? なんて聞いてどうするのよ。仮に聞いて、その答えがイエスだったら……。