「手が空いていましたので、陽菜さんのお手伝いをしていたのですが」

 向井を庇うように落ち着いた声の成瀬にイラッとした。と同時に、また胸がチクンと傷む。
 友達と話すような言葉遣いで成瀬が話している姿を今迄見たことがなかったし、その相手が向井だったこと。そして、わたしが現れた途端いつもの言葉遣いに戻っていたことに、なんだか成瀬から壁を作られたような気がしたからだ。
 向井のことを「陽菜」と親しげに下の名前で呼んでいたことが面白くないし、成瀬だって「優也」……と、わたしが口にしたこともない呼ばれ方をされ普通に会話を続けていた。

 成瀬が下の名前で呼ぶのは、わたしだけじゃないの? いつから二人は下の名前で呼び合うような仲になっていたの? わたしよりも向井との方が距離感が近いの?

 いろんな黒い感情が次から次へと湧き上がる。考えたくもないのに考えてしまう、そんなわたし自身のことも何か嫌だと思ってしまった。

「真尋様、私になにか」
「なんでもない! 邪魔したわね」

 胸が締め付けられ痛すぎて言葉にならない。これ以上二人の姿を見ているのが辛くて、二人の前から逃げ出した。