「もぉ、どこ行っちゃったのよ成……」
「優也くん、タイが曲がってるよ。直してあげる」
「いいって、大丈夫だから」
「よくない。はい、こっち向いて?」

 備品室の中から話し声が聞こえ、足を止めた。

「優也くん? あ、成瀬のことか。備品室に居るの?」

 ドアノブに手をかけ備品室のドアを開けると、そこには成瀬と雑用係の向井陽菜が居た。成瀬の襟元に手を伸ばし曲がったタイを直している最中で、見方によっては恋人同士が隠れてイチャイチャしているようにしか見えない。

「はい、これでよし!」
「どうも」

 成瀬の目尻が緩みクシャッと笑顔に変わった。あんな自然な笑顔、わたしは向けられたことがない。
 二人の雰囲気に声がかけられず、その場に立ち尽くしてしまった。そんなわたしの存在に気づいたのは成瀬だった。

「真尋様」
「え、あっ真尋様。やだっ恥ずかし……」

 パッと手を引っ込めた向井だったが、遅い。しっかり見ていたし、なんなら目に焼き付いてしまっている。

「……こんな所で何をしていたの? しかも二人きりで」
「えっと、あの、そのぉ」

 わたしの質問に対し、向井が必要以上にしどろもどろで答えられないような反応をしたから、胸の奥がザワザワする。