「そんなものかなぁ」
「結婚相手の道辻様と執事の私を比べること自体間違えています。失礼ですが真尋様、道辻様とデートのお約束を交わしたこと……お忘れではないですよね?」
「んへっ? わたしがデート? 何時してた?」
「会食の晩、辻道様と別れ際にお約束されていましたが」
「嘘、わたし約束した覚えなんてな……あぁっ!」

 否定しかけて思い出した。食事を終え早々に席を立ち、外で待つ成瀬の元へ足早に向かい顔を見た瞬間ホッとして気が抜けていた。
 多分その時だ。背後から翔斗さんに何か声をかけられ正確に聞きもせず生返事したような気がする。

「あの時、デートの約束を……した? え、そうなの?」
「はい。週末に会いましょう、と」
「ひぇぇ……」

 週末にデートとか、久しぶりすぎて何を準備するべきかも分からない。
 取り敢えず約束の日までに肌と髪の手入れをして、着ていく服を選ばなくては。とクローゼットを開け洋服を見渡すが、会食の日は成瀬に用意された洋服を着ていった為どんなに考えても選び出せない。

「そうだ。また成瀬に選んでもらお」

 我ながらいい考えだと部屋を出て成瀬を探しに行くことにした。
 二階の部屋から廊下へ出て階段を下りる。まだ勤務時間内のはずなのに、リビングにもキッチンにも居ない。玄関も確認し父の部屋に書斎も覗いてみるが、成瀬の姿はどこにも無い。