話は延々と続き、ほぼ翔斗さんが一人で喋りまくっていた。
 最初こそ「初対面なのによく喋る人だなぁ」と思ったけれど、話を聞いて相槌を打っているうちに翔斗さんに対する警戒心は無くなった。
 多少わたしに気を使い率先して色々と話をしてくれていたのだろうが、人見知りしない人懐っこい性格で陽気なタイプでフランクな人なんだな、という印象を持った。

「ところで真尋さんは結婚後、仕事は辞めようとお考えですか?」
「えっと……」

 懐石料理に箸を付けながら饒舌に話していた翔斗さんに尋ねられ、正直そこまで将来のことなど考えていなかったため言葉を詰まらせる。
 そもそも突然父から見合い話を持ち出され、あれよあれよと会食の日取りを決められてしまい。父からの指示を受けた成瀬に連行され現在ここに居る、という状況なわけで。
 親が決めた結婚相手を前に、まだ好きという感情さえ湧いていない状態で未来の生活スタイルをイメージすることは難しいと思う。

「僕はどちらでも構いませんよ? 家庭に収まり主婦業をするといっても、生活スタイルは今と変わらず使用人達に任せるつもりですから。習い事でも趣味を極めるでも、真尋さんは気ままに好きなことをして過ごせばいい」

 でも、それがお見合い結婚というものなのだろうなと感じたのは、翔斗さんがライフプランとして話してくれた中にわたしが存在していたからだ。
 東堂家の一人娘としての世継ぎ問題は、この見合いを成立させたい父の猛プッシュにより重要視されていると、今日に至るまで感じていたけれど。現実問題、わたしが東堂商事を継がないと宣言している以上、将来の会社経営にも影響がある。父としては婿養子となり東堂家を継いでくれるという翔斗さんは、家柄も血筋も文句無しの相手。
 分かっている、頭では納得できることなのだけれど。なぜだろう、わたしの心はずっとザワザワしていて落ち着かない。
 翔斗さんとの結婚をイメージしようとすると必ず成瀬の顔がチラつきモヤモヤしてきて、思い描く未来には当然のように成瀬がいる。そして今よりもっと近く、重要な存在となっているような姿しか思い浮かばない。