明日には居ない君の物語

「え、え〜と、かくかくしかじかありまして…」

私は、秋来先生に今までの事を話した。

「え…?」

もはや、面白いくらいに秋来先生の顔はポカンとしていた。

自分の息子の行動が理解できなかったのだろう。

自分の一人息子が不良になっただけでも驚いただろうに、不憫………。

「それで、今って授業中だよね…?あの馬鹿は授業中に“役所行ってくるわ”なんて言って、ジャージのまま出て行ったと…」

「はい」

はぁぁぁ、と大きなため息を吐く先生…。

「とりあえず、今日は早退してうちの病院に泊まりなさい。バかなめの説教はそれからだ」

「に、入院ですか…」

正直、したくない。

けど、もっと精密な検査をして、様子見という面でも必要なのだろう。
「うん、じゃあ俺は担任の先生のところに早退することを伝えて来るから、涼香ちゃんは帰る支度をしたら教室で待っていてくれるかい?」

「わかりました」

パタン______

と、扉を閉めると保健室の外には冬菜が居た。

「りょ〜ちゃん、大丈夫?早退する?」

「うん、早退してこれから入院するから、少なくとも3日は学校来れないかなぁ」

「そっかぁ…帰る準備手伝うよ。だから、りょ〜ちゃんは座ってな」

冬菜は教室に着いてから、私の準備をしながらも私の体調を気遣ってくれている。

「冬菜、ありがとうね」

「ん〜ん?いいんだよ?ふゆがやりたくてやってるんだもん。りょ〜ちゃんの旦那になんて負けてらんないもん!」

だ、旦那って…

旦那じゃないし……
「それと〜」

ん?

「りょ〜ちゃん、ふゆになんか隠してるでしょ」

なんで、みんなこんなに鋭いのかなぁ!

私がわかりやすいだけじゃないとおもうんだよね!?

特に冬菜は私の事だけ異常に鋭いけどっ!!

「いや〜、ちょっと、ね?」

「りょ〜ちゃ〜ん?ふゆには嘘なんて通用しないよ?」

「言わなきゃダメ…?」

「だーめ!そんな可愛い顔して可愛く言ったってダメなんだから!」

“ふゆはりょ〜ちゃんが困ってるなら助けたいの!”とぷんすこ怒っている。

まぁ、美人なだけに頬を膨らませてどれだけ怒っても可愛いだけなんだけどね…?

「えっと、すごく簡潔にまとめて言うと、要にプロポーズされて、授業中なのに要が学校指定ジャージ着て“役所行ってくるわ”って学校出て行った…。プラス、私の入院………」

「はぁ?」

そうなるよなぁ…あはは………。
「秋来、アイツ何してんの?ふゆの可愛い可愛いりょ〜ちゃんにいきなり何してんの?は?アイツ、マジでふざけんなよ。ぜってー、ぶっ飛ばすっ…」

あーーーーーー!!

冬菜が、可愛い冬菜がスイッチ入っちゃったよ〜…!!

「ちょ、冬菜?落ち着いて…?ていうか、落ち着け!?目が本気だよ?ね?」

「りょ〜ちゃん、アイツ帰って来たら殺っていい?」

「だめ!冬菜、ほんとに一旦落ち着いて!!」

私に怒られて、黒いオーラと怖い顔をしまい、いつもの可愛い顔に戻る冬菜…。

いつも思うけど、切り替えの鬼すぎる…!

「りょ〜ちゃんが、秋来に取られた…!」

うぅ…と泣く冬菜。

「あ〜、もう、泣かないで?」

「りょ〜ちゃん、秋来になんかされたらふゆにすぐ言ってね?助けに行くから!」
「何もしねぇよ、俺を何だと思ってんだ」

声の主は、もちろん要。

「おいこら、秋来」

「あ"?」

2人の元ヤンがガン飛ばしあってる…!

「はいはいはい!!ストーップ!!!」

「秋来さぁ、何ふゆの可愛い可愛いりょ〜ちゃんに手出してんの?ふゆはりょ〜ちゃんが幸せならそれでいいけど、りょ〜ちゃんの話お前さっきちゃんと聞いてねぇだろ?あ"ぁ?りょ〜ちゃんが止めてるのにも関わらず、授業中に、ジャージで、婚姻届取りに行くとか馬鹿だろ?」

「ざけんな!てめぇには何の関係もねぇだろ。お前こそ、俺の涼香に気安く触れてんじゃねぇよ。はっ倒すぞ」

私が止めに入っても尚続く元ヤン同士の喧嘩。

「おめぇに出来るもんならやってみろや!愛蘭(あいらん)の元総長舐めんな!!」

「はっ。俺も炎龍(えんりゅう)の元総長だけどな。てめぇこそ、俺に勝てんのかよ?」

そう、この2人は暴走族の元総長だったりする。

冬菜は女暴走族界で日本一強い愛蘭の元総長で、冬菜の前の総長を実力で負かし、ある意味無理矢理、総長になっている。

要は、空手・合気道・柔道のどれをとっても日本一。その実力を炎龍の総長にみそめられ、売られた喧嘩を買ったところあっさり総長を破ってしまい、満場一致で総長させられている。

この2人が本気でバトったらやばい…!

学校が潰れる!!
「ちょっと、2人とも!ほんと落ち着いて!!学校潰す気!?…ケホッケホッ、ハァハァケホッ…!」

あ、まずい。

今このタイミングで発作は流石にやばい…。

「涼香!」「りょ〜ちゃん!」

「ケホッケホッ…ッ…ケホッハァケホッケホッケホッ…」

「涼香、深呼吸だ。出来るか?」

無理だと言う事を伝えたくて、首を横に振る。

「路畑、涼香の鞄から吸入だせ。涼香、ゆっくりでいいから、少しずつ息吸って、吐いて?」

「はいっ」

冬菜が焦って吸入を渡してくる。

「ッ___!」

また、だ…

この心臓を貫かれるような痛み…。

私が呼吸をするたびに強くなる…。

「ふゆ、秋来先生呼んでくる!!」

そう言って走って教室を出て行く冬菜。

「涼香、吸入できるか?」

「ケホッ…ハァ…む、り…ケホッケホッ、ハァッ…」

そう言いながら私の意識は遠のいて行く。

「涼香?涼香!!」

私の異変に気づいて必死に名前を呼んでくれる要。

でも、そんな要に“大丈夫”の一言を言うことすら出来ない…。

そのまま、私の意識は飛んだ。
気づけば私は病院に居た。

時計を見ると午後9時______。

ガラッ

「涼香っ!」

あ、要…

そっか、私、要と冬菜の前で倒れたんだ…

「要」

「ん?」

「要、好き、大好き」

心配をかけたくなくてふふふっと笑いながら言う

「え…は…え…?」

そんな私の前で要は口を金魚みたいにパクパクさせている。

「涼香、お前それ…あぁ、はぁぁぁ…まじ可愛い…死ぬ…」

「え…?」

「だぁかぁらぁ、やっと起きたと思ったらなんでそんな可愛いこと言うんだよ…!俺を殺す気か?ほんと、可愛い。キスしたい。抱きつきてぇ。まじ可愛い」

んぇっ…?

き、キス…?

「ちょっとちょっと要くん!涼香ちゃんが困ってるでしょ〜?その辺にしてあげなさい」

「げっ、楓さん…」

「げっ、ってなによ」

「別に?」

いつのまにか病室に入って来ていた楓さん。

血液内科の筈なのになんでいるんだろう、この人…。

まぁ、助かったけど。
「楓さん、いつからいたの?」

「涼香ちゃんが目覚めるちょっと前からいたわよー」

「えっ、じ、じゃあ…」

「あっはは!うん、聞いちゃった〜!!んふふ、いいものみーちゃーった!!いゃ〜、若いっていいねえ……」

“あたしはこの間彼氏に振られたのに…”とぶつぶつ言ってはいるが気にしない。

ていうか、楓さん今回振られたので私が知ってる限り20人目だよ…?

なんでそんなに振られてるの…?

サイコだから…?

「楓さん、俺こんなに死にたくなったの初めてだわ…」

「ん〜、あたしもそろそろ結婚したぁい」

いや、結婚の話は一切してないのよ。

「要くんさぁ、なんて言ってプロポーズしたの?ねぇねぇねぇねぇ!」

は?

なんで楓さん知ってるの!?

「あっはは!涼香ちゃん、顔すごいコロコロ変わってる!!なんで知ってるの?って顔しながら赤くなってるし!かーわいい!!」
「涼香、その百面相ほんとどうにかしろって…。まぁ、そんなところも可愛いし好きだけど」

はぁぁぁぁぁ!?

なんで楓さんの前でそういうこと言うかなぁ!?

でも、好き!

大好き!!

けど、それとこれとはまた別の問題で〜っ…!

「あーあー、まぁた涼香ちゃんすごい顔してる。ほんと可愛いのに勿体無いなぁ…。その可愛さ私にも分けてよ!あと、ちゃっかりいちゃつかないで!?」

「え〜、いやです。俺は涼香に何回言っても可愛いを言い足りないんで。それから、楓さんには涼香の可愛さあげないですよ。あげても涼香は最高に可愛いとは思うけど…」

か、要さん…私もうキャパオーバー寸前までいってる……!

「ちょ、要、か、可愛いって連呼しないで…!もう、無理、限界!!」

要の服の袖を掴んで止めるも

「やだ。また、赤くなってんの?かーわい」

なんて言ってくる