「あっ、りょ〜ちゃんとハモった〜!!」
キャッキャッと笑う冬菜。
苦笑いする私。
相変わらず目つき最悪な要。
「路畑、お前うるせぇ」
「りょ〜ちゃ〜ん…!」
要に睨まれ私に泣きついてくる冬菜。
「いや、冬菜も元ヤンじゃん!要如きに睨まれたって平気でしょうよ!!」
そう、実はこの美人な冬菜も元ヤンだったりする…。
「そうだけど〜…今はちゃんと可憐な女の子なの!!」
「えぇ、自分で言う〜?」
まぁ、そんなこんなで学校に着いた。
え〜、現在2時間目。
みんな大好き体育の授業をグラウンドで行なっています。
勿論、私はドクターストップがかかってるから出来ないわけで…
炎天下の中動いてないから、ちょっとだけ具合悪くなってきた…
「涼香」
「あ、要…」
私の声と顔を見た瞬間、要の顔はサッと青ざめる。
「涼香、お前具合悪いだろ。ほら、保健室行くぞ」
要に嘘をついてもすぐバレる。
「うん…ごめんね、要」
「謝んな」
要はただそれだけ言うと、「センセー!春風が具合悪いみたいなんで保健室行ってきまーす!!」と声を掛けた。
「立てるか?」
「あ、うん……わっ」
立とうとするとフラッと立ちくらみがする。
「無理すんな」
「うん…」
私は要に所謂お姫様抱っこをされ、保健室まで運び込まれた。
生憎、保健室の先生は居ないようで、要はまず最初に私をベッドに寝かせてくれる。
それから、私の付き添いで何度もここに来ている要は慣れた手つきで火照った私の体を冷やすために水枕を用意してくれる。
「要」
「ん?」
「ごめんね…いつもいつも…」
要に気付かれないように静かに涙を流しながら私は言う。
「何言ってんだよ。さっきから言ってんだろ、謝んなって。俺は迷惑だと思ってねぇし、面倒だと思ったら俺はしない。涼香が好きだからやってんだよ。だから気にすんな」
うぅ…私の幼馴染はいや、私の彼氏はなんていい奴なんだ…!(元ヤンとは思えない)
あ、やばい…もう涙止まんない…
「ったく、なんで泣いてんだよ」
「だ、だって要が優しすぎるからぁ…うぅ…」
そう言うと私は要に抱きつく。
「ばぁか。俺は涼香にしか優しくしねぇよ」
私の涙を拭いながら、私を優しく包み込んでくれる要…。
「ふふ…要」
「んー?」
「大好き」
「知ってる。…愛してる」
顔が赤くなっていくのがわかる。
忘れてたけど要ってすごいイケメンで顔面国宝級なんだよ!?
ドキドキしないはずがない!!
「まーた赤くなってる。かーわい」
「も〜!すーぐそう言うこと言う!!」
ズキッ
「ッ…」
「涼香?」
何これ…なんでこんな痛いの?
待って怖いよ…
「か、なめっ…!」
「涼香、深呼吸出来るか?」
深呼吸なんて痛すぎて無理!
ふるふると首を横に振る。
「どこが辛い?」
「し、ん、ぞう…の、あたり…」
「わかった。今親父呼ぶからな」
いつもなら絶対に拒否をするけど、今は拒否なんてしていられない。
…それくらい辛い。
「か、なめ…こわ、い、よ…たすけ、て…?」
「大丈夫、俺がついてるから」
そう言いながら、私を優しく抱きしめて撫でてくれる。
「あー、泣くな泣くな。喘息の発作出たらどうすんだ〜?」
「…グスッ…ケホッケホッ…」
「吸入は…あるわけないか。ほら、深呼吸」
いつもと同じように、私のペースに合わせて深呼吸をしてくれる。
「ありがと…かなめ」
「ん、苦しかっただろ」
「うん…」
バンッ
「涼香ちゃん!!要!!」
「父さん、涼香の発作が…いつもと何か違う」
あぁ
やっぱりそうなんだ…
なんかいつもより苦しいって思ってたんだよね…
「昨日、合併症を引き起こしていると言ったね?それでわかったことを簡単に話すと、涼香ちゃんは狭心症と喘息が合わさってしまっている状態だ」
『狭心症…』
こんな時までハモるなんてやっぱり仲良しだなぁ、私たち。
「おい涼香、今仲良しとか思ってる場合じゃねぇから」
「なんでわかるの!?」
「顔に書いてる」
はぁぁぁぁ?
なんでこんなにわかりやすいんだろ、私…
「ほらほら、今は要が落ち着かせてくれたから涼香ちゃんの発作も落ちいてるけど、次いつ発作が出るかわからないんだから、痴話喧嘩はまた後でにしてくれよ?」
『はーい』
「まあ、君らなら理解しているだろうけど、狭心症はかなり危険な病気だ。放っておくと心筋梗塞を起こす可能性もある。それに、一般的には冠動脈1枝の病変の場合、14年後も生存している確率は80%。涼香ちゃんの場合は喘息を待ち合わせているだけでなく、軽症とは言えない。だが、治療が上手くいけばある程度は長く生きれる」
「つーことは、治療が必ずしも上手くいくとは限らねぇってことだろ?」
「あぁ」
「あぁって…。じゃあ涼香はどうなんだよ?治んのか?治るんだよなぁ?」
きっと、治んない…。
私が一番わかってる
誰よりもわかってる
だって、私の、私自身の身体だもん
わかるよ
「治るとは言えない」
ほら
「は?なんでだよ…」
要、もういいんだよ
「要」
「涼香…」
そんなに声震えちゃって、いつもの威勢はどうしたのさ
「要、落ち着いて。もう、いいの。いいんだよ。だって、私身体弱いもん。人間、いつかは死ぬんだし、その時期が少し早くなっただけ」
「涼香ちゃん、君は生きる事を諦めてはいけない。君はまだ若いんだ。病気が完治する事だってある。君にはまだ未知数の未来が待ってる」
ううん
そんなのないよ
「そうだよ、涼香。親父の言う通りだ。もういいなんて言うなよ。諦めんなっ…」
「私、喘息でさ、今まで生きてきて辛かった。みんな楽しそうに体育やってるのに、私はまともに運動したことない。合唱コンクールの練習の時だって、張り切って歌ってたら運動した時並に苦しくなってそのまま学校早退して病院行きだった。けど、それでもみんなと一緒に居たかった。運動出来なくても、周りと同じことが出来なくても、少しでも近い存在で居たかった。だから、今は残された時間を楽しみたいの。このまま、やりたかった事を残したまま死にたくない。せめて、今やりたい事の半分くらいは実行したい」
私は話しながら、頭ではわかっていたはずなのに、やっと感情として感じて涙が止まらなくなっていた。