いつもと変わらない朝。

　今日も私は、桐谷生花ヘルメース・トーキョー店に立つ。ここが、今の私の居場所。もっともっと頑張って仕事を覚えて、認められたい。次の目標はもっぱら、ブーケ作りをマスターすることだ。私の作った花束で、お客様を笑顔にしたい。

　片桐様のお部屋に飾ったストレリチアは、私なりに最適なバランスを考えて切り揃えた。少しでも生き生きと見えるように、少ない時間ではあったけれど、頑張った。だから、小鳥遊さんから「片桐様が喜んでくれた」と聞いた時は、心の底から嬉しかった。
　

「おはよう、桃花」

「伊藤店長。おはようございます」

「昨日は本当にありがとう、せっかくのお休みだったのに。お陰で助かったわよ。今度、埋め合わせさせてね」

「いいですって、そんなの」

　昨日はいろいろあったけど、でも役に立てて良かった。
　
「あ、それはそうと桃花。これ、あなたに渡してくれって」

「え？　また私にですか？」

　店長から手渡されたのは、一通の封筒だった。

「そうなのよ。ったく、最近の男どもは自分で渡す勇気も無いなんて、情けないわねえ」

　そう言ってカラカラと笑う。
　また、馬場君からお誘いの手紙だろうか？　そう思って中を開けると、馬場君のとは違う綺麗な字の手紙が入っていた。
　
『本日終業後、昨日の場所でお待ちしています。小鳥遊』
　
　え？

「た、小鳥遊さん？」

「そうなのよ。あら、馬場君じゃなくて残念？」

「いえ、そういうわけじゃ……」

「やあね、冗談よ。私としては馬場君も捨てがたいけど、小鳥遊支配人もオススメよ？　あの人、生真面目だけど面倒見良いし、冷たそうに見えるけど実はすごく優しいのよね」
　
　うん、知ってる。
　小鳥遊さんの素敵なとこ、私も。
　
「いいわねー、若いって。さあ、桃花ちゃんはどっちを選ぶのかな？」

「もうっ、店長！　からかわないでください。仕事仕事っ！」

　店長と私は、二人してクスクスと笑い合った。