従業員出入口から出てきた小鳥遊さんに、思い切って声をかけた。

 小鳥遊さんは私を見て、驚いた顔をする。それと、何だか少し疲れた顔。
 
「三橋さん? どうして……」
 
 ストレリチアを無事に届け、お客様がチェック・インする様子を馬場君と見届けてから、私たちはホテルを後にした。

 ご飯でも食べに行くかという馬場君の誘いを断って、私はホテルの近くで一人、時間を潰していた。小鳥遊さんに会うために。
 
 さっきの言葉が引っかかっていたから。
 
 ——デートの邪魔をして悪かった。
 
 確かに、デートには違いなかったけど……でも。付き合っていると勘違いされていたら?

 私が誰と付き合おうと、小鳥遊さんにとってはどうでもいいこと。そんなことはわかってる。
 でも、私は嫌だ。
 
「あ、えっと……事務処理があったので。あのまま残ってました」

 大ウソだ。絶対バレそうな気がする。
 
「そうでしたか。遅くまでお疲れさまでした」

 小鳥遊さんは疑うでもなく、いつものように静かに微笑む。

「小鳥遊さんこそ、こんな時間まで。あ、ストレリチアのお客様は大丈夫でしたか?」

「ええ。今日のお花は特に綺麗だ、って喜んでらっしゃいました」

「そうですか……。良かったぁ、喜んでいただけて」

 それを聞いてほっとした。頑張って準備した甲斐があった。

「三橋さんのお陰です。本当に、ありがとうございました。そのお客様……片桐様は、私にとって特別な方なんです」

 小鳥遊さんは懐かしそうな表情をして遠くを見た。

「特別、ですか?」

「はい。まだ私が二十代前半の頃、よくご夫妻でいらしていたんです。私はその頃、まだ半人前で頼りなくて。だから気になったのでしょうね。お二人は私を息子のように可愛がってくださいました。私がホテルの仕事を辞めようと思った時も、お二人が引き留めてくださったんですよ」