この恋はＤＤで。

　程なくして、綺麗に切り揃えられたストレリチアを抱えた三橋さんが俺のところへやって来た。その隣には、花瓶を持った馬場がいる。
　
「小鳥遊さん、お待たせしました。こちら、準備できました」

　カウンター越しに、三橋さんから花を受け取る。鳥が羽ばたくような形をした、眩しいストレリチア。片桐様の大切な思い出の花だ。

「本当に、ありがとうございました。このお礼はいずれきちんとさせてください」

「そんな、いいんです。お客様の為にしたことですし、それに困った時はお互い様ですから」

「しかし……」
　それでは俺の気が済まない。わざわざ休日に、デートを中断してまで助けてくれたんだ。

「んじゃ、支配人。今度メシ奢ってくださーい！」

　三橋さんの隣からひょこっと顔を出し、馬場が笑顔を向ける。

「お前はホテルの人間だろう。キリヤさんに迷惑をかけたんだぞ」

「えー。でも俺、そのせいで大事なデート中断したンすよ？　せっかくいい感じだったのに……」

　いい感じ……って。おいおい嘘だろ、やっぱり二人は付き合っているのか？

「小鳥遊さん、今日は馬場君のお陰ですごく助かったんです。馬場君が車を出してくれなければ、間に合わなかったかもしれないので……。それに、うちの本店店長にも頭を下げてくれたんです」

　三橋さんがおろおろと困ったように俺に言う。畜生。わかってるよ、俺だって。

「ああ……。そうか。ありがとう、馬場。今度奢らせてもらおう」

「よっしゃあ！」

「缶コーヒーをな」

「えっ⁉︎ なんすか、それ！　ケチー！」
　
　俺たちのやりとりを見て、三橋さんがクスクスと笑う。

　そうか、そうだよな。三橋さんには、やっぱり歳が近くて、いつも笑顔を絶やさないこういう男の方がいいよな。馬場なら、三橋さんの笑顔をすぐに引き出せる。

　悔しいが、俺にはできないことだ。
　
「三橋さん。馬場。本当に、今日はありがとう。デートの邪魔をしてしまって、申し訳なかった」
　
　そう言うと、気のせいか三橋さんは少し悲しそうな顔をした。

　俺にはその理由がわからなかった。