間もなく午後三時。ヘルメース・トーキョーではチェック・インが始まる。

 先程からエントランスをちらちらと見ているが、三橋さんの姿はまだない。最悪、間に合わないことも覚悟している。その時は、自分が片桐様に頭を下げよう。
 
 三時五分前。
 エントランスから、ストレリチアの束を抱えた女性が小走りに入ってきた。いつもと雰囲気が違うのが遠目からでもわかるが、あれは三橋さんだ。
 そのすぐ後ろには男性が——ん?
 あれは、馬場か?
 
 二人はキリヤのガラス張りの向こう側へと入って行く。すると、俺の目の前にある電話が鳴った。ディスプレイには「キリヤセイカ テンポ」と表示されている。正面を見ると、店の中で三橋さんが受話器を握っている。
 
「はい、フロント小鳥遊でございます」

「小鳥遊さん、お疲れさまです。キリヤの三橋です」

「三橋さん、お疲れさまです。ありがとうございます、間に合わせていただいて」

 受話器を片手に持ちながらキリヤの方を見ると、三橋さんも同じようにこちらを見ている。

「とんでもないです。すぐ準備して、お渡ししに行きますね」

「はい。ありがとうございます、お待ちしてます」

「では、また後ほど。失礼します」

「はい、よろしくお願いします」
 

 電話を切り、三橋さんの方を向いて頭を下げると、彼女も同じように頭を下げた。

 良かった、これで問題無く片桐様をお迎えできる。

 キリヤの方に目をやると、私服姿の三橋さんと馬場が、二人で作業をしているのが見えた。