日曜日。待ち合わせ場所へ行くと、そこには少し緊張した面持ちの馬場君が、ブルーの車に寄りかかって立っていた。
「お待たせ。ごめんなさい、遅かったかな?」
私の顔を見ると、馬場君はパッと笑顔になる。
「ミツバチちゃん! おはよう。いや全然、俺が早く来すぎただけ」
「そう? それならいいんだけど」
「うん! てかさ……」
馬場君は私をまじまじと見ると、手で口元を覆う仕草を見せた。
「何? どうかした?」
「……やべェ。めっちゃ可愛い」
そう言って顔を真っ赤にする。馬場君こそ可愛いよ、と思う。
「はいはいっ。ほら、早く行こう」
何となく、真剣な雰囲気になりたくない。できれば、馬場君とは今みたいな関係でいたい。ちょっとズルいかもしれないけど。
馬場君の隣、助手席に乗り込む。今日は、サラッとした生地のワンピースに、少しヒールのある靴を合わせた。仕事の時はパンツスタイルにローヒールのパンプスが定番だ。立ち仕事だし、お花を扱う時に怪我をしないようにする為だ。
水族館には一時間程で到着した。
順路に沿って、館内をそぞろ歩く。薄暗い照明のお陰で水槽の中はいっそうきらめいて見える。カワウソやカマイルカ、サメにピラルク、マンボウ。それぞれの水槽の前で、馬場君は夢中になって覗き込んでいた。
「すげーな! こんなに色々いるんだな、水族館て」
数えきれないほどの種類の魚たちが泳ぐ大水槽の前で、馬場君は興奮気味に言った。
「馬場君、もしかして……水族館初めて?」
「うん。実はさ、あんまし興味無かったんだ。だって似たような魚しかいないんだろうと思ってたし。ほら、寿司屋の店先とかにあるじゃん? 水槽。あんな感じかと思ってたからさ」
「あれは、生け簀だから。……もう」
可笑しくて、思わず笑ってしまう。馬場君と話していると、いつもこうだ。
「ねえ。ミツバチちゃんてさ、彼氏いる?」
会話の流れを無視した質問に、一瞬戸惑う。
「何、突然。いないわよ。いたらこんなふうに出かけたりしないでしょ」
「そっか。そりゃ確かに」
大水槽の中では、マンタがこちらに向かって泳いできては、水槽にぶつからないよう器用に方向を変えるという動きを繰り返している。
「ミツバチちゃん、あのさ」
「はい」
「俺と、付き合ってくれませんか?」
真剣な目。その顔に笑顔は無い。彼の緊張感がひしひしと伝わってくる。
馬場君のことは、もちろん嫌いじゃない。初めて会った時から今日までずっと、笑顔を絶やさない人。私が今の職場に早く馴染めたのも、馬場君のお陰だ。いつも私を気にかけて、みんなの輪の中に入れてくれた。キリヤスタッフにも人気のある馬場君に気に入られた力は大きい。連絡先を交換した時も、すごく自然だった。歳下だけどしっかりしたところもあって、でもやっぱり可愛いところもある。
だけど——。
「馬場君、私——」
「お待たせ。ごめんなさい、遅かったかな?」
私の顔を見ると、馬場君はパッと笑顔になる。
「ミツバチちゃん! おはよう。いや全然、俺が早く来すぎただけ」
「そう? それならいいんだけど」
「うん! てかさ……」
馬場君は私をまじまじと見ると、手で口元を覆う仕草を見せた。
「何? どうかした?」
「……やべェ。めっちゃ可愛い」
そう言って顔を真っ赤にする。馬場君こそ可愛いよ、と思う。
「はいはいっ。ほら、早く行こう」
何となく、真剣な雰囲気になりたくない。できれば、馬場君とは今みたいな関係でいたい。ちょっとズルいかもしれないけど。
馬場君の隣、助手席に乗り込む。今日は、サラッとした生地のワンピースに、少しヒールのある靴を合わせた。仕事の時はパンツスタイルにローヒールのパンプスが定番だ。立ち仕事だし、お花を扱う時に怪我をしないようにする為だ。
水族館には一時間程で到着した。
順路に沿って、館内をそぞろ歩く。薄暗い照明のお陰で水槽の中はいっそうきらめいて見える。カワウソやカマイルカ、サメにピラルク、マンボウ。それぞれの水槽の前で、馬場君は夢中になって覗き込んでいた。
「すげーな! こんなに色々いるんだな、水族館て」
数えきれないほどの種類の魚たちが泳ぐ大水槽の前で、馬場君は興奮気味に言った。
「馬場君、もしかして……水族館初めて?」
「うん。実はさ、あんまし興味無かったんだ。だって似たような魚しかいないんだろうと思ってたし。ほら、寿司屋の店先とかにあるじゃん? 水槽。あんな感じかと思ってたからさ」
「あれは、生け簀だから。……もう」
可笑しくて、思わず笑ってしまう。馬場君と話していると、いつもこうだ。
「ねえ。ミツバチちゃんてさ、彼氏いる?」
会話の流れを無視した質問に、一瞬戸惑う。
「何、突然。いないわよ。いたらこんなふうに出かけたりしないでしょ」
「そっか。そりゃ確かに」
大水槽の中では、マンタがこちらに向かって泳いできては、水槽にぶつからないよう器用に方向を変えるという動きを繰り返している。
「ミツバチちゃん、あのさ」
「はい」
「俺と、付き合ってくれませんか?」
真剣な目。その顔に笑顔は無い。彼の緊張感がひしひしと伝わってくる。
馬場君のことは、もちろん嫌いじゃない。初めて会った時から今日までずっと、笑顔を絶やさない人。私が今の職場に早く馴染めたのも、馬場君のお陰だ。いつも私を気にかけて、みんなの輪の中に入れてくれた。キリヤスタッフにも人気のある馬場君に気に入られた力は大きい。連絡先を交換した時も、すごく自然だった。歳下だけどしっかりしたところもあって、でもやっぱり可愛いところもある。
だけど——。
「馬場君、私——」