「セザール。またその話か」
執務室で仕事をしていたエディロンは今さっき切り出された話に、はあっとため息を吐いた。
「なんども申し上げて恐縮ですが、そろそろ本格的に考えるべきです。エリス国の王女は既に結婚適齢期を迎えております。いつどこに嫁ぐかわかりません。他国と話が纏まる前に、我が国に迎えるべきです」
「エリス国の王女、ねえ……」
エディロンは読んでいた書類の端をつまらなそうに指先で弾く。
先日、エリス国の国王主催で周辺国を招いた大規模な舞踏会が開催された。数年に一度開かれるその会は、周辺国家含め最も大きな社交の場だ。
外交上、周辺国の王族との人脈を広げ友好を深めておくことは非常に重要だ。エディロンも重々それは承知しているので、その舞踏会に参加した。
(エリス国の王女と言えば……)
亜麻色の髪を美しく結い上げた、小柄な女性が脳裏に思い浮かぶ。大きな緑色の目はくりっとしており、まるで小動物を思わせるような見た目だ。