驚きの事件から半年ほどが過ぎたこの日、シャルロットは再び祖国の地を踏んでいた。
 弟のジョセフの戴冠記念式典に招待されたのだ。
 既にエリス国の実質的な国王はジョセフだが、今日の戴冠式を以て対外的にも正式な国王となる。

 式典の開始までに少し時間があったので、シャルロットはジョセフの許可をもらって懐かしい場所を訪れた。

「ここが、シャルロットが過ごした場所か?」
「ええ、そうです」

 シャルロットは頷く。エディロンは初めて訪れるその離宮を興味深げに見ていた。
 シャルロットは何気なく部屋の扉にふれる。その扉はギギギッと音を立てた。

(この音、懐かしい)

 ガタガタと揺れる窓ガラスも、閉めても隙間風が入ってくるドアも、立て付けが悪くて閉らないクローゼットも、今となってはいい思い出だ。
 キッチンに立つと、ご飯が足りなくてジョセフと肩を寄せ合って王宮の庭園で集めたものを調理していた思い出が蘇る。