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 およそ一年ぶりに訪れるエリス国。シャルロットは、たくさんの尖塔がそびえる宮殿の本宮を見上げる。

 レスカンテ国時代の名残を残すダナース国の宮殿は豪華絢爛だが、エリス国の宮殿も負けず劣らず煌びやかな場所だ。
 ただ、記憶に残るほとんどの期間を質素な離宮で育ったシャルロットにとって、本宮はあまり馴染みがない。吊り下がるシャンデリアや上質な絨毯が敷かれた廊下の景色を見ても、さして懐かしさはなかった。


 そんな景色を眺めながら辿り着いた本宮の中央部に位置する謁見室。
 ピリッとした空気の中、エディロンの怒りを孕んだ声が響いた。

「ふざけるのもいい加減にしていただきたい。こちらは危うく殺されかけたのですよ」
「ですから、仰る意味がわかりませんわ。なぜわたくし達がそのようなことを?」
「自国の領土をより広大にしたいからでしょう?」
「まあ、おほほ。面白い想像ですわ」

 優雅に扇を揺らして笑うのは、エリス国王妃のオハンナだ。
 その隣にはシャルロットの父でもあるエリス国王、背後には魔法庁の長官であるオリアン卿や、リゼット王女とフリード王子も控えている。