人々が叫ぶ声がしきりに聞こえる。暴れていた牛は今にも主の握っている綱を振り切りそうだ。

「ケイシー! 子供達を建物へ」

 シャルロットはケイシーにも、周囲にいる子供達を建物に誘導するよう指示する。

「はい。かしこまりました」

 ケイシーは建物の前で遊んでいた子供達を中に入れはじめる。そして、ふとシャルロットのほうに目を向けて表情を引き攣らせた。

「シャルロット様!」

 ケイシーの表情は、必死に何かを訴えかけようとしていた。

(え?)

 背後を振り返ったシャルロットは大きく目を見開く。
 まさに、暴れていた牛が主の握っていた綱を振り切り、こちらに走ってきている。

(いけない。こっちに来る!)

 興奮しているせいで、ものすごいスピードだ。咄嗟に逃げようとしたシャルロットは躓いて倒れる。子供達が絵を描くのに使っていた小石に足を取られたのだ。

(間に合わない!)

 既に牛は目前まで迫っていた。

(六度目の人生は、牛に襲われて結婚前に死ぬなんて──)

 シャルロットはぎゅっと目を瞑る。
 こんな結末、誰が予想していただろう。少なくとも、シャルロットは予想していなかった。