「このまま持っていてくださいませ」

 突然バラの花を一輪持たされて戸惑うアリール王子に、シャルロットはにこりと微笑みかける。

「皆様。危ないのでお下がりくださいませ」

 周囲に声をかけると、何が始まるのだろうと興味津々の様子でシャルロットに注目していた来賓客達が一様に後ろに下がる。自分の周囲が半径三メートルほど空いたのを確認し、シャルロットは握っていた剣を胸にぴったりと付けるように上向きに構えた。

(ジョセフ、応援していて)

 心の中で、故郷にいる弟へと呼びかける。

 目を閉じてぎゅっと剣の柄を握ると、それだけで昔の感覚が蘇る。かつて毎日のように練習した剣技は、転生しても体に染みついている。

(目を開けたら、わたくしは騎士になる)

 剣を振る。
 ヒュンという音が響いたのを合図に、シャルロットの剣は美しく弧を描く。くるりと回転しながら舞うと、着ているドレスの裾も広がり軽やかに揺れた。