「とにかく、その犯人の狙いが俺であるということは間違いない。 だから莉羅、君に恋人役を頼んだ」

「……え?」

 私……?

「恋人役を付けておけば、アイツも簡単には手を出せないからな、そいつも。君を巻き込む可能性もあるが、多分狙うとしたら俺が一人になった時だろう」

 蔵間さんの考えは、恐らく間違ってはいない。狙いが蔵間さんなのだとしたら、蔵間さんが一人になるタイミングを狙ってくると推測出来る。
 私がずっと隣にいれば、その犯人は蔵間さんを狙うことは難しいはずだ。

「蔵間さん、絶対に一人にならないでください」

「え?」

「一人になった瞬間、あなたは多分狙われます。……だったら今日は、私から離れないでください」

 私は蔵間さんにそう伝えて、蔵間さんの手を握りしめる。

「……莉羅?」

「蔵間さん。今日だけ私は、あなたの恋人です。……今だけでいいです、恋人らしいこと、しませんか?」

 そう言って私は、蔵間さんの手を引っ張って引き寄せる。

「……莉羅」

「静哉……さん」 

 なぜだか分からないけど、私は蔵間さんの服を手繰り寄せ、そのまま目を閉じてキスをしていたーーー。
 そのキスは本当に一瞬だったーーー。