結局。

「御馳走様でした」

「はい、ありがとうございます」

と、碧衣さんは言いました。

私はハンバーグを完食し、ナイフとフォークを置きました。

全て食べましたが、今のところ身体に変化はありません。

そもそも、惚れ薬の混入にも気が付きませんでした。

元々のハンバーグの味、というものが分からないので、どうにも判断しかねますね。

しかし。

「普通に完食することは出来たので、紺奈局長相手でも、恐らく食べてもらえるんじゃないでしょうか」

「そうですか?良かったです」

と、碧衣さんは言いました。

良い笑顔です。

碧衣さんは私と違って、非常に表情豊かな『新世界アンドロイド』です。

第2局、紺奈局長の手腕の賜物でしょうか。

それに、何も考えずに完食してしまいましたが。

よく考えたら、食事をする必要のない『新世界アンドロイド』が、料理という、人間的な行動を取ることが、そもそも珍しいです。

私には有り得ない発想ですしね。

「よく思いつきましたね、碧衣さん」

「え?惚れ薬のことですか?」

と、碧衣さんは言いました。

惚れ薬も確かにそうですが。

「料理を作るという行為のことです」

「あぁ、それは学校で、調理実習があったからです」

と、碧衣さんは答えました。

調理実習ですか。

「そんな授業があるんですか?」

「僕の通ってる高校では、当たり前にありますよ?そちらはないんですか?」

と、碧衣さんに尋ね返されました。

「今のところ、私は経験していませんね」

と、私は答えました。

一学期の間は、そのような授業はありませんでした。

ということは、二学期に待ち受けているのでしょうか?

「だったら、今のうちに経験しておく方が良いかもしれませんよ」

「成程…言われてみれば、そうですね」

と、私は答えました。

これから二学期に、そのような実習授業があるのなら。

今のうちに、経験しておくのも良いかもしれません。

ましてや私達『新世界アンドロイド』は、料理の経験などない訳ですから。

「良かったら、この本貸しますよ?」

と、碧衣さんは言いました。

そして、例の本、『猿でも分かる!初めての料理』という本を、私に手渡してきました。

「ありがとうございます」

と、私は答えました。

折角、学校が休みで、日中は暇を持て余していますし。

これを機に、『人間交流プログラム』の一環として。

料理というものに、挑戦してみても良いかもしれません。