「え、おめでとうって…何が?」

と、奏さんは聞きました。

最早、何が起きたのかを、しつこく奏さんに尋ねる必要はありません。

私に出来ることは、一つだけです。

「奏さん、来年から叔母さんのお家に行かれるそうですね」

と、私は言いました。

すると、奏さんはぎょっとして、目を見開きました。

「な…んで、それを…」

と、奏さんは聞きました。

何でそれを知っているのか、と聞きたいのでしょうね。

その答えは簡単です。

「実は昨日、奏さんのいる施設に侵入しました」

「は!?」

「そこで、第五匍匐前進状態で、奏さんが電話をしているところを、盗み聞きしていました」

「な、何やってるの瑠璃華さん!?」

と、奏さんは大声をあげました。

何を…と言われましても。

空き巣です。

あのようなことをしなければ良かったと、心底悔やんでいます。

ですが、いずれ知らされることでしたから。

少しでも早めに知って…そして。

人間で言うところの、心の準備というものを、しておいた方が良いかと思うのです。

「そこで、奏さんが叔母夫妻のもとに引き取られることを聞きました」

「そ、そんな…。い、いつの間にそんな…」

「済みません。奏さんに何があったのか知りたくて、つい」

「つ、ついって…」

「そこで知りました。奏さん、叔母さんと一緒に暮らすよう、誘われているそうですね」

と、私は言いました。

「…」

と、奏さんは唇を引き結んで、黙り込みました。

「電話越しでしか聞いていませんが、奏さんとのお話から察するに、とても良い方であるという印象を受けました」

と、私は言いました。

奏さんの周囲にいる大抵の人間が、奏さんを邪魔者扱いしたり、厄介者扱いすることが多くて、うんざりしますが。

しかし奏さんの叔母さんは、本当に奏さんを迎え入れることを望んでいるように聞こえました。

きっと、奏さんのことを大切にしてくださるでしょう。

だから、きっと。

奏さんは、叔母夫妻の家に行くのが、一番良いのです。

その結果転校して、私と会うことがなくなったとしても。

奏さんの将来を思えば、きっと、私は笑顔で送り出すべきなのです。