その後、一言二言交わしてから。

奏さんは、電話を終えて受話器を置きました。
 
「…」

そのまま、奏さんは無言でした。

今、何を考えているのでしょう。

いつ頃叔母の家に帰ろうか、と考えているのでしょうか?

すぐにでも帰りたい、と思っているのでしょうか。

私には分かりません。

すると、そこに。

「あぁ、電話終わったの?」

と、誰かが奏さんに話しかけました。

誰でしょう?大人の声です。

もしかして、施設の職員の方でしょうか。

「あ、はい…終わりました」

と、奏さんは敬語で答えました。

敬語を使うということは、やはり、話し相手は施設の職員だと推測します。

「それで?いつ頃引き取ってくれるって?」

と、施設の職員は、身も蓋もないことを聞きました。

「それは…。…やっぱり、来年度の新学期から、って…」

と、奏さんは口ごもりながら答えました。

「ふーん…。まぁ、それが一番、キリが良いわよね」

「…」

「じゃ、あなたがここにいるのも、あと一学期ね。こっちもボチボチ手続きを進めておくから、少しずつ荷造りしてね」

と、施設の職員は言いました。

…荷造り。

当然ですね。奏さんは、この施設を出ていくのですから。

星屑学園から、いなくなるのですから。

…いなく…。

「…」

と、私はしばし無言で、その場に伏せ。

それから、通常モードに戻りました。

奏さんの身に何があったのか確かめる、という目的は果たしました。

これ以上の長居は無用です。

来た道を戻って、帰ることにします。

…何故でしょう。

奏さんに何があったのか、ちゃんと分かったのだから。

私は、満足感を覚えていなければならないはずなのに。

私の中にあるのは、「知らなければ良かった」という後悔だけでした。

おかしな話です。

今知らずにいたって、いつかは知ることになっていたでしょうに。

だって、来年になれば。

奏さんは、私の前から消えてしまうのですから。