私の、このときの衝撃は。

うっかり、自分が隠れていることを忘れるほどでした。

私は思わず立ち上がって、窓の外から、室内を直接目視しました。

何をやっているのでしょう、私は。

何の為に、迷彩服を着て、窓から見えないよう伏せていたのか。

こんなにも無防備に、姿を晒してしまうなんて。

しかし、目視したお陰で、奏さんが誰と話しているのか分かりました。

奏さんは、受話器を手にしていました。

つまり、電話中だったのです。

成程、奏さんの話し相手の声が聞こえなかったのは、このせいですね。

「…!」

と、私はハッとして、自分があまりにも無防備に、姿を晒してしまっていることに気づきました。

急いで、再びその場に伏せました。

室内の様子を伺ったところ、どうやら私が窓の外に立っていることに気づいた人はいないようで。

部屋の中は、何事もなかったように静かです。

良かったです。誰にも見られていなかったようですね。

それにしても私は、何故咄嗟に立ち上がるなどという愚を犯してしまったのか。

狼狽えて自分の姿を晒すなど、空き巣失格です。

でも、それだけ驚いてしまったのです。

…編入とか、転校とかいう言葉が、私を激しく動揺させました。

どういうことですか。いきなり…。

奏さんが電話をしていることは分かりましたが、電話の相手は誰なのでしょう?

私はそれを確かめる為に、更に耳を澄ませました。

すると、奏さんが持っている受話器から聞こえてくる声も、私の耳に届きました。

どうやら、女性の声です。

『だから、三学期いっぱいはそっちに通って、春休みに転入試験を受けて、新学期からこっちに来れば良いじゃない』

「…うん…それは…そうなんだけど…」

『大丈夫よ、こっちの先生に事情を話したの。車椅子の生徒も問題なく受け入れられるし、授業に遅れがあるようなら補習もしてくれるって仰ってたわ』

と、謎の女性は言いました。

何者ですか?

「でも…家とか…改修しないといけないんじゃない?俺の為にリフォームしてもらうのは…」

『そんなことを心配してるの?大丈夫よ、うちは元々、段差の少ない家だし。確かにリフォームは必要だけど、精々玄関とお風呂周りくらいよ。主人にも話してあるし、納得してるわ』

と、謎の女性は言いました。

『何より、何年もあなたを施設に預けさせることになって、私達は後悔してるのよ。やっと国内に帰ってきたんだから、今度こそ、あなたを引き取って一緒に暮らしたいわ』

と、謎の女性は言いました。

…転校。リフォーム。国内に帰ってきて、一緒に暮らす。

これらの言葉から察するに。

もしかして、奏さんが話している相手というのは…。

「…ありがとう、叔母さん…。その気持ちは嬉しい」

と、奏さんは言いました。

…やはり。

電話の相手は、奏さんの叔母だったのですね。