音を立てないよう、静かに匍匐前進で進み。

奏さんの声がした部屋の近くに、辿り着きました。

この窓の向こうですね、奏さんの声がするのは。

残念ながら、建物の中に入るのは、まだ危険なので。

私は窓の下にぴったりとくっつき、花壇の影に隠れました。

ここが一階で良かったです。

二階だったら、窓に貼りつかなければならないところでした。

私は外から耳を澄ませ、室内の様子を伺いました。

相変わらず、奏さんの声が聞こえてきます。

「…うん、それは…分かってるよ」

と、奏さんは言いました。

何だか、困ったような声です。

なんと。早速ピンチを迎えているのでしょうか。

もしそうだとしたら、私は即座に助けに入ります。

その為の「装備」は、ちゃんと持ってきました。

私は腰のポーチに手を伸ばし、スタングレネードを掴みました。

もし奏さんの身に何かあれば。

私はすぐさま窓ガラスを割り、室内に飛び込み。

このスタングレネードを炸裂させる所存です。

…ん?それだと、奏さんにも被害が及ぶのでは?

仕方ありません。必要な犠牲です。

ともあれまずは、状況を把握しなくては。

「うん…。でも、まだ学校が…中途半端な学年だし…」

と、奏さんは言いました。

学校…?学校の話をしているのですか?

そもそも、先程から奏さん、一人で喋っていませんか?

奏さんの声は聞こえるのに、奏さんが話しているであろう、相手の声が全く聞こえません。

まさか、『新世界アンドロイド』の集音性能を上回るほど、小さな声で会話している訳ではないでしょう。

そんなに小さな声なら、奏さんの耳にも聞こえないでしょうし。

奏さんは、誰と喋っているのでしょう。

まさか、独り言ではありませんよね?

もし独り言だとしたら、奏さんは色々と大変です。
 
すると。

「でもそんな…編入試験なんて…。いきなり受けられるものなの?」

と、奏さんは誰かに聞きました。

編入試験?

「それに、転校の手続きだって…そんなにすぐ出来るものじゃないだろうし…」

と、奏さんは言いました。

…転校?

これらの言葉は、私にとって、まさに青天の霹靂でした。

それって、まさか。

奏さんが、星屑学園からいなくなってしまう、ということですか?