カメラがないに等しいのですから、私が警戒すべきは、人間の視線だけです。

しかしそれも、避けるのは簡単なことです。

片目を、常にサーモグラフィーカメラモードにすることで、建物内の人間の位置を探ります。

あとは、人間の視覚、聴覚の範囲外に出ていれば、人間に捕捉されることはありません。

今のところ、私の侵入を阻むものは、何もありませんね。

余裕です。

ただ一つ、問題があるとすれば。

私は、この施設の中で、奏さんが何処に住んでいるのか、正確な位置を把握していないという点です。

確か、一階の部屋に住んでいるという情報は、以前教えてくれましね。

ということは、一階の何処かなのでしょうが。

私の空間認識能力で、建物の構造を推測したところ。

一階だけでも、20を越える部屋数があります。

この中から、ズバリ奏さんの住む部屋を見つけるのは大変です。

一部屋一部屋確かめても良いのですが、人目を気にしながら確かめていては、それなりに時間がかかるでしょうし。

やはり、ここは奥の手を使うとしましょう。

私は一時的に通常モードを解除し、自分の判断で、戦闘モードに移行。

限界まで耳を澄ませて、建物の中から聞こえる、全ての音を感知しました。

この中から、奏さんの声、血流、心拍音、車椅子の動く音などを聞き分け。

その音の位置から、奏さんの居場所を把握します。

例え声を出していなくても、心拍音までは隠せませんから。

これで、奏さんが何処にいるのか分かります。

すると。

「…見つけました」

と、私は呟きました。

案外、簡単に見つかりました。

というのも、奏さんの声が聞こえてきたからです。

一階の、左寄りにある広めの部屋にいらっしゃいますね。

あそこが、奏さんの部屋なのでしょうか?

分かりませんが、とにかく現場に行ってみましょう。

私は、窓から見えないように姿勢を低くし、匍匐前進で進みました。

万全を期して、第五匍匐前進です。

知っていますか、匍匐前進にも種類があるということを。

もし他人の家に空き巣をする予定があるなら、修得しておくべきですね。

このようなとき、とても役に立ちますから。

おすすめの教材は、勿論。

『猿でも分かる!匍匐前進のやり方』です。