人目につかないよう、影に潜みながら走り。

ものの数分足らずで、私は奏さんの住む施設に辿り着きました。

既に門限を迎えているらしく、正面玄関の門は、固く閉じられていました。

成程、正面突破は無理、ということですね。

そこで、私は裏口に回ってみました。

が、そちらもしっかり閉まっていて、南京錠までつけられています。

確かこの施設は、小さな子供が多いのでしたね。

防犯上、戸締まりはしっかりしなければならないのでしょう。

理解しました。

しかし、この程度の施錠では、私の足を止める何物にもなりません。

私は、施設の周囲を囲む、高いコンクリートの壁を見上げました。

この程度なら、余裕ですね。

私は腰に巻き付けたポーチから、鈎付きのロープを取り出しました。

それをコンクリートの壁に引っ掛け、私は壁をひょいっ、と乗り越えました。

さながら忍者のようです。

私はアンドロイドですが。

この私の侵入を防ぎたかったら、コンクリート壁をあと10メートルは高くし。

更に、その上に、電流の流れる有刺鉄線を、何重にも張り巡らせることですね。

そこまでされると、侵入するのはちょっと手間がかかります。

あと五分は、時間がかかったでしょうね。

つまり、本当の意味で私の進入を阻むなど、不可能だということです。

少なくとも、人間の手では無理です。

『Neo Sanctus Floralia』の技術でもなければ、私を止めることは出来ません。

私は『新世界アンドロイド』ですから。

壁の内側に降り立った私は、鈎ロープをしまいました。

帰りに、また使うことになりそうですね。

次に。

私は空間認識能力を研ぎ澄ませ、周囲に防犯カメラの類がないかを探りました。

もしカメラがあるなら、カメラに映らないように移動しなければなりません。

しかし。

1分ほどかけて、周囲の様子を探りましたが。

幸いなことに、防犯カメラはほとんど見当たりません。

精々、表玄関と裏玄関に、それぞれ一つずつ設置している程度です。

ふむ、これだけですか。

まだまだ警備が甘いですね。

これでは、私に「自由に動き回って良いよ」と言っているようなものです。

では、お言葉に甘えて。

ここからは、自由に動き回らせて頂くとしましょう。