仲間を救うことは、自分の命を救うことより重いです。

家族を救うことは、世界を救うことより重いです。

『Neo Sanctus Floralia』にいたとき、散々そう教えられました。

私もそう思います。

ですから私は今、自分の命よりも重く、奏さんを救いたいと思っています。

その為には、まず。

「…やはり、何があったのか教えてくださる気にはなりませんか?」

と、私は聞きました。

放課後のことです。

私は改めて、奏さんにそう尋ねてみました。

しかし。

「だから…何もないって。本当に何もないよ」

と、奏さんは困ったように言いました。

それは嘘です。

人間は嘘をつくとき、血流が乱れますから。

耳を澄まして、奏さんの血の流れる音を聞いていれば分かります。

「この週末に、何かが起きたのでしょう?」

と、私は聞きました。

それ以外に有り得ません。

だって、先週の金曜日までは、様子は普通でしたから。

しかしこうして、週明けの月曜日になると、これほど様子が変化しています。

とすれば、週末の間に何かあったのだと推測するのが普通です。

私が、カカオ豆と格闘している間に。

奏さんの身に、何があったというのでしょう。

「何もないってば」

と、奏さんは頑なに否定しました。

「何もないなら、どうして…」

「瑠璃華さんの考え過ぎなんだよ。授業だって、ちゃんと聞いてなかったでしょ」

と、奏さんは呆れたように言いました。

それは奏さんも同じでは?

「瑠璃華さんは頭が良いから、少々聞いてなくても大丈夫だろうけど…でも、授業はちゃんと聞かないと」

と、奏さんは諭すように言いました。

その言葉、奏さんにそっくりそのままお返しします。

「しかし、奏さん」

「はいはい、心配し過ぎ心配し過ぎ。じゃあ、俺はもう帰るね」

と、奏さんは強引に話を終わらせました。

「お待ち下さい。まだ話は終わっていません」

「ごめんね。でも今日は月曜日だから。玄関のところで、琥珀さんが待ってるはずなんだよ」

と、奏さんは言いました。

そうか。月曜日は、琥珀さんと登下校するのでしたね。

「琥珀さんを待たせる訳にはいかないから。もう行くよ。また明日ね」

と、奏さんは一方的にそう言って。

さっさと車椅子を動かして、教室から出ていってしまいました。

…逃げられました。

逃げられてしまいました。

「…」

と、私は奏さんの背中を、無言で見つめました。

そうですか、分かりました。

どうあっても、奏さんは私に事情をお話するつもりはないようですね。

では、私にも考えがあります。