「誰かが、奏さんをいじめたのですか」

と、私は聞きました。

もしそのような不届き者がいるなら、私が奏さんの代わりに、仇を討ちましょう。

仲間の受けた傷は、自分の受けた傷だと思え。

『Neo Sanctus Floralia』の大原則です。

奏さんをいじめる輩は、例え奏さんご本人が許したとしても、私は許しません。

「そんな…誰にもいじめられてなんかないよ…」

と、奏さんは言いました。

「本当ですか？いじめっ子を庇わなくて良いんですよ」

「いじめっ子なんていないよ」
　
「では、何で泣いていたのですか？」

「泣い…泣いてないって」

と、奏さんは苦しい言い訳をしていました。

何故強がろうとするのでしょう。

自分の弱さを認めることは、強くなる為の第一歩です。

「眠れなかったのは何故ですか？」

「それは、ちょっと…夜更ししてただけだよ」

と、奏さんは言いました。

私から視線を逸らしています。

まるで、聞かれたくないことがあるかのように。

…。

…どうやら、頑として話す気はないようですね。

何故でしょう。私では頼りないからでしょうか？

「…奏さん。私に相談する気にはなれませんか？」

「…瑠璃華さんの考え過ぎだよ。別に何でもない」

と、奏さんは言いました。

それは嘘ですね。

目が泳いでいますし、心拍も乱れています。

そして何より。

「何でもない」と主張する人間の九割は、本当は何かあるのです。

何でもないなどということは、有り得ません。

それでもなお、奏さんが私に「何でもない」と言い張り、隠し事をするのは。

きっと、私に知られたくない何かがあるのでしょう。

私では、頼りにならないのでしょうか？

相談するに値しないと？

「フォンダンショコラ、ありがとうね。大事に食べる。…それと、本当に何でもないから、気にしないで」

と、奏さんは言いました。

もうこれで、この話終わり、とばかりに。

顔に貼り付けたような、作り笑いを浮かべて。

その場は、それで終了してしまいました。