「そこで、この休みを使って、カカオ豆から板チョコレートを作り」

「う、うん」

「それを刻んで溶かし、フォンダンショコラを作ってきました」

「それは…凄いね…」

「お茶漬けを作ったときの、10倍は手間がかかりました」

「うん。それはそうだと思うよ」

と、奏さんは真顔で言いました。

奏さんの真顔モードを頂きました。ありがとうございます。

料理上手を自負する私ですが、そんな私でも、今回のフォンダンショコラ作りは、少々苦労しました。

しかし、こうでもしなければ、同じく料理上手な琥珀さんに対抗出来ませんから。

私も、本気を出しました。
 
「是非、味わって食べてみてください」

「そっか…。ありがとうね、何だか…食べるのが物凄く勿体ないよ」

と、奏さんは言いました。

そう思ってくださって、とても光栄です。

「まだバレンタイン当日は先なのに、既に二人の女子から、しかも一人は本命…の女の子から、バレンタインチョコをもらえるなんて…。俺は幸せ者だよ」

と、奏さんは言いました。

が。
 
それはそれ、これはこれです。

「…それはそれとして奏さん。一体どうされたのですか?」

と、私は改めて聞きました。

私の、手作りフォンダンショコラ自慢は、この際脇に置いておきましょう。

世の中には、優先順位というものがあります。

私のフォンダンショコラも大事ですが、それ以上に。

奏さんの様子がおかしい。この真相を確かめることの方が、ずっと大事です。

「どうされたって…何が?何も、どうもしてないよ…」

と、奏さんは困ったように言いました。

が。

その程度で、私を欺けると思ってはいけません。

何せ私は、誰よりも奏さんの近くにいた『新世界アンドロイド』です。

奏さんの様子がおかしければ、誰よりも早く気づきます。

まだ出会ってから日が浅い、琥珀さんの目は欺けても。

私の目は、欺くことは出来ません。

「それは嘘です」

「え、う、嘘?」

「はい。まず第一に…奏さんの目の下に隈があります。昨夜眠れなかった証拠です」

「…そ、それは…」

と、奏さんは図星を突かれたらしく、視線を彷徨わせながら、言い淀みました。

やはり眠れなかったようですね。

「それに、瞳の充血が見られます。もしかして、いえもしかしなくても、数時間前に泣いていませんでしたか?」

「…そ、そんなこと…」

「ありますね。血の巡りが早くなっていますし、心拍数も増えています」

「…何でそんなことまで分かるの?」

と、奏さんは聞きました。

「それは、私が『新世界アンドロイド』だからです」

と、私は言いました。

そして何よりも。

私が、奏さんの親友だからです。