翌日。

「おはようございます、奏先輩、瑠璃華先輩」

と、琥珀さんは言いました。

火曜日だというのに、何故か琥珀さんが教室にやって来ました。

一体どうしたのでしょう。

と、思ったら。

私は気づきました。

彼女が、小さな紙袋を持参していることに。

あれは、まさか。

「バレンタインのプレゼントです」

と、琥珀さんは言いました。

やはりそうでしたね。

「え、いや…バレンタインって…。…まだ一ヶ月以上先じゃない?」

と、奏さんは困惑気味に言いました。

今、1月ですからね。

しかし。

「…?フォンダンショコラを渡すのが、バレンタインプレゼントなのではないのですか?」

と、琥珀さんは首を傾げました。

どうやら、琥珀さんはバレンタインをご存知ではなかったようです。

昨日の私と奏さんの話を聞いて、色々誤解されたようですね。

第1局では、バレンタインの知識は普及していないようです。

やはり、あれは第4局特有のものだったのですね。

ということは、第2局の碧衣さんも、バレンタインを知らない可能性がありますね。

「何か違うのですか?」

と、琥珀さんは聞きました。

「え、いや、違うって言うか…」

「作ってきました。バレンタインチーズケーキフォンダンショコラ」

「…チーズケーキフォンダンショコラ…?」

と、奏さんは聞き返しました。

私も、第4局で様々なチョコレートのお菓子を見たり、食べたりしてきましたが。

チーズケーキフォンダンショコラは、初めて聞きましたね。

どうしても、琥珀さんはチーズケーキにこだわるようですね。

彼女の十八番なのかもしれません。

「はい。作ってきましたから、奏先輩に差し上げます。バレンタインプレゼントです」

と、琥珀さんは言いながら、奏さんに紙袋を渡しました。

昨日の話を聞いて、彼女の負けず嫌いが発動したようですね。

自分も、バレンタインに参戦しようと思ったようです。

「え、えぇと…とりあえず、ありがとう」

「はい。是非食べてみてください」

と、琥珀さんは自信たっぷりに言いました。

…。

…何でしょう。

この光景を見ていると。

私の中に、もやもやと、むらむらと。

あの感情、そう…嫉妬心が芽生えてきました。

何故このような気持ちになるのでしょう。

琥珀さんに先を越されたような、自分の欲しかったものを横取りされたような、そんな錯覚を感じます。

何一つ、横取りされてはいないのですが。

もしかして、私も琥珀さんと共に過ごすようになって。

琥珀さんの負けず嫌いが、私にも移ったのでしょうか。

だとしたら厄介ですね。

「味見しましたが、美味しいですよ」

「そうなんだ…。チーズケーキフォンダンショコラって、初めて聞いたけど…。有り難く食べるよ」

「はい、そうしてください」

と、琥珀さんは胸を張って言いました。

とても得意気です。

その様子に、私の嫉妬心がメラメラしていました。