「確かに、ほとんどの親類は嫌いだよ。未だに、遺産目当てで『帰ってこい』って言ってくるし」

と、奏さんは苦笑いしながら言いました。

やはり、そうなのですね。

「でも、あの叔母さんは別。俺の両親が死んだときも、凄く同情して泣いてくれたし…」

と、奏さんは言いました。

そうだったのですか。まともな親類もいたのですね。

「…でも、その叔母さんは、奏さんを引き取っては下さらなかったんですね」

と、私は言いました。

同情はするけど、奏さんを引き取るかどうかは、また別の話、ということなのでしょうか。

世知辛い世の中です。

しかし。

「いや、引き取りたいって食い下がってくれたよ。でも、丁度あの頃だったんだ、叔母さん夫婦が海外に勤務になったのは」

と、奏さんは言いました。

それは…実にジャストなタイミングですね。

「俺は、まだ事故の怪我が治ってなくて、入院が必要だったから、とても海外に連れていける状態じゃなくて。でも、海外勤務は正式に決まっていたから、今更やめますとは言えない」

「タイミングが悪かったですね」

「本当に、そうなんだよ。叔母さん夫婦にも子供がいたしね。俺が迷惑をかけるは訳にはいかないと思って、結局は俺の方から断ったんだ。叔母さんは、最後まで俺を引き取りたいって言ってたよ」

と、奏さんは言いました。

そのような事情があったのですね。

しかし、奏さんは昔から謙虚な方だったのですね。

「自分も海外に連れて行ってくれ」くらいの我儘を言っても、バチは当たらなかったでしょうに。

ましてやその当時の奏さんは、まだ小学生で。

しかも、両親を突然失ったばかりだったのでしょう?

よく、他人を気遣う余裕があったことです。

これは、奏さん生来の気質なのかもしれませんね。

「それで、その叔母さん夫婦が、この度帰国されるのですね」

「うん。帰ってきて落ち着いたら、俺に会いに来てくれるって。昨日連絡が来たんだ」

「それは良かったですね」

と、私は言いました。

「うん。会うのは本当に久し振りだから、楽しみだよ」

と、奏さんは嬉しそうに言いました。

奏さんが元気を取り戻してくれて、良かったです。