しかし、忘れてはいけません。

この、琥珀さんというアンドロイドは。

とても、負けず嫌いなアンドロイドなのです。

「…いいえ、私は諦めきれません」

と、琥珀さんは言いました。

「はい?」

「恋人が駄目なら、私の友達になってください」

と、琥珀さんは頼みました。

そう来ましたか。

また方向性を変えてきましたね。さすが柔軟な思考回路を持つ『新世界アンドロイド』です。

「それなら良いでしょう?瑠璃華さんとも、友人から始めたそうですし」

「え?いや、うん…。それはそうだけど…」

「ならば、私とも友達になってくれますよね?」
 
と、琥珀さんは奏さんに迫るように聞きました。

…何でしょう。

今度は、胸の奥がもやもやとします。

「それは…と、友達…。…うん…友達なら…まぁ…」

と、奏さんはしどろもどろになりながら、しかし承諾しました。

「ありがとうございます。では、友達か
ら始めましょう」

「う、うん…」

「今日から友達として、宜しくお願いします、緋村さん」

「よ、宜しく…」

「では早速、友人として親睦を深めましょう。まずは、一緒にクレープを食べに行きましょう」

と、琥珀さんは言いました。

やっぱり、クレープを諦めきれないのですね。

「私達の友情の、第一歩です。さぁ、それでは出発しましょう」

と、琥珀さんは言いながら。

奏さんの車椅子の、ハンドルを握りました。

「え、いや、でも。今日は瑠璃華さんとバドミントンに…」

「瑠璃華さんとは、日中一緒にいられるのですから、良いではありませんか。放課後くらいは、私と親睦を深めてください」

「そ、そんな」

「では行きましょう。これも友情ですね」

と、琥珀さんは言いながら。

奏さんを車椅子を押して、さっさとこの場を立ち去りました。

そして、一人取り残された私は。

「…」

と、無言で空を見つめていたのでした。

…何でしょう。

何とも言い難い感情ですが。

今なら、紺奈局長を侮辱されて、ブチギレている碧衣さんの気持ちが、分かるような気がします。