「…私のこと、嫌いですか?」

と、琥珀さんは聞きました。

「君が嫌いとか、そういうことじゃないよ。だって俺、今日出会ったばかりの人を、好きになることも嫌いになることも出来ないから」

と、奏さんは言いました。

「今日、さっき会ったばかりなのに、君の人となりをどうやって判断したら良いの?よく知りもしない人を、ただ美人だからって、付き合おうとは思わないよ」

「…」

と、奏さんのきっぱりとした物言いに、琥珀さんは無言でした。

琥珀さんは、人ではなくアンドロイドですので。

それを言うなら、美アンドロイドですね。

「つまり、私とあなたが恋人になるには、まだ親密度が足りないということですね?」

と、琥珀さんは聞きました。

「親密度って…。まぁ、そういうことかな」

「分かりました。では、これから親密度を上げていきましょう。まずは手始めに、近くのクレープ屋さんに寄って」

と、琥珀さんは提案しました。

クレープ屋を諦めきれないようです。

しかし。

「悪いけど、それは遠慮しておくよ」

と、奏さんは断りました。

奏さんがこんなに、相手の誘いを断るとは。

私が誘ったときは、いつも快諾してくれていたので…。

何故こうも、きっぱりと琥珀さんの誘いを断るのか分かりません。

「何故ですか?」

「君はあれでしょ。瑠璃華さんと同じく、『人間交流プログラム』?の一環で、俺と付き合いたいんだって言ったよね?」

「はい、言いましたね」

と、琥珀さんは答えました。

さっき、教室でそう言っていましたね。

「つまり、俺じゃなくても良い訳だ。恋人になってくれる人なら、誰でも」
 
「そのようなことはありません。他種族でありながら、瑠璃華さんと親友になることが出来たあなただからこそ、恋人になりたいのです」

「その方が、他の人より都合が良いからでしょ?」

「…そのようなことは…」

と、琥珀さんは口ごもりました。

全く知らない方と、恋人関係になるよりは。

私達『新世界アンドロイド』とも、快く接してくれる奏さんの方が、仲良くなるには都合が良い。

その方が、より早く、人間の感情を学べる。

琥珀さんなら、それくらいのことは考えていそうですね。

「だったら、付き合えないよ。気持ちは嬉しいけど」

「…」

「他を当たってもらえる?」

と、奏さんは言いました。

非常に。

非常に、鮮やかに断りましたね。

むしろあっぱれです。