場所を変え、校舎裏にやって来ました。

ここなら、人気はありません。

そこで、改めて。

「い、一体どういうこと?何がどうなってるの…?」

と、奏さんは困ったように聞きました。

「私にも、何事か分かりません」

と、私は言いました。

すると。

「久露花瑠璃華さん」

と、琥珀さんは私を呼びました。

何処か、棘のある声です。

「何でしょうか?」

「何故、あなたまでついてくるのですか?私は、緋村奏さんにお話をしたいのです」

と、琥珀さんは言いました。

「あなたには、もう用はありません。帰ってくださって結構ですよ」
 
と、琥珀さんは突き放すように言いました。

…。

…何でしょう。

私の胸の奥から、何か覚えのある感情が、沸々と湧き上がってくるような気がします。

「ですが、私は奏さんの親友ですので」

と、私は答えました。

「それに、この後私は、奏さんと予定があります。帰る訳にはいきません」

「予定?何の予定ですか?」

「体育館で、一緒にバドミントンをします」

と、私は言いました。

すると、琥珀さんはどうでも良さそうな顔になりました。

「そうですか。ですが、私もこの後、緋村さんと予定があります」

「何のご予定ですか?」

「一緒にデートをします。恋人は、共にデートに行くものですから」

「そうですか」

と、私は言いました。

デート…デートですか。

本や映画の中でしか、聞いたことのない言葉です。

「従って、あなたは必要ありません。私はこれから、緋村さんと二人きりで放課後デートをしますので、瑠璃華さんは先にお帰りください」

と、琥珀さんはきっぱりと言いました。

…何でしょう。

やはり、胸の奥に異物感が…。

と、思ったとき。

「ちょ、ちょっと待ってって!」

と、奏さんは声をあげました。

「そうですね、そろそろ行きましょうか緋村さん。デートは何処に行きたいですか?」

「は、はい?」

「学校周辺にあるデートスポットは、全て調べてきました。とりあえず、今日は初日ですから…近くにある、クレープ屋に行きましょう」

と、琥珀さんは言いました。

そんなお店があるのですか。この近くに。

それは知りませんでした。

この学校に、既に半年以上通っている私よりも。

つい一昨日、『Neo Sanctus Floralia』から外に出てきた琥珀さんの方が、周辺の地理に詳しいとは。

下準備は完璧、ということですか。

「明日は映画、明後日は遊園地、そして明々後日は、ついにホテルですね。こうして、段階を踏んで、深い恋人関係になっていきましょう」

「君は何言ってんの!?」

と、奏さんはぎょっとして言いました。

額に汗が滲んでいますが。大丈夫でしょうか?

とはいえ、今の私は、他人を心配している場合ではないのですが。