「…………は?」

と、奏さんは、たっぷりと沈黙した後に、かろうじて一言呟きました。

あまりに驚き過ぎて、奏さんもフリーズしていたものと思われます。

私と同じですね。

「私の恋人になってください、緋村奏さん」

と、琥珀さんは繰り返しました。

「…」

と、奏さんはぎょっとしたまま、目をぐるぐるさせていました。

そのとき。

私も、ようやくフリーズ状態から回復しました。

はっ。

私としたことが。一体何をやっていたのでしょう。

何故フリーズしてしまったのか、自分でも理解不能です。

しかし、ここでフリーズの原因を考えるより先に、聞くべきことがあります。

「琥珀さん。どういうことですか?」

と、私は聞きました。

いきなり奏さんのもとにやって来て、交際のお誘いとは。

何らかの策略があるのではないか、と思ったからです。

すると。

「どういうことも、こういうこともありません。私は彼のこと、緋村奏さんのことが好きです。だから、彼の恋人になりたいと思っています」

と、琥珀さんはきっぱりと言いました。

…何でしょう。

今朝、すっきりと晴れたばかりなのに。

この琥珀さんの言葉を聞いた途端に、私の胸の奥に、再び、何かが引っ掛かったような感覚を覚えました。

これは何なのでしょう。

これも、何らかの感情の発露なのでしょうか。

「そういう訳ですから、私と交際してください、緋村奏さん」

「え、いや。み、皆見てるのに。ちょ、そ、そんな、いきなり」

「まずは手始めに、デートに行きましょう。放課後デート…いかにも人間らしい青春ですね」 

と、琥珀さんは言いました。

そして、私の手から、奏さんの車椅子のハンドルを奪おうとしました。

思わず声が出そうになった、そのとき。

「と、とりあえず、ここじゃ皆聞いてるから。他の場所で話そう!?」

と、奏さんは慌てて言いました。

「分かりました。緋村さんがそう仰るなら、場所を移動しましょう」

と、琥珀さんは言いました。