「…お会いしたかったです」

と、琥珀さんは、こちらをじっと見て言いました。

そうですか。

「昨日会ったばかりでは?」

と、私は尋ねました。

アパートに、空き巣に来ましたよね。

しかし。

「私が会いたかったのは、あなたではありません」

と、琥珀さんは、私をチラリと一瞥して言いました。

私ではない?

では、琥珀さんが会いたかった人物というのは…。

「私が会いたかったのは、あなたです。緋村奏さん」

と、琥珀さんは言いました。

「え?お、俺…?」

と、奏さんは目を丸くしました。

何なら、それを聞いていたクラスメイト達も、きょとんとしていました。

この転入生と、奏さんと、何の関係があるのかと。

私にも分かりません。

「はい。あなたが、緋村奏さんですね?」

「そ、そうだけど…。君は…」

「私は、『Neo Sanctus Floralia』第1局所属、Sクラスの『新世界アンドロイド』、形式番号2017番、コードネームは『キルケー』。人間としての名前は、橙乃琥珀と言います」

と、琥珀さんは丁寧に自己紹介しました。

初対面ですから、自己紹介は必要ですね。

「そ、それはどうも…。ご丁寧に。俺は、瑠璃華さんの友達で…。緋村奏です」

と、奏さんはどきまぎしながら、自己紹介を返しました。

「はい、存じております」

「そ、そうですか。…それで、俺に何か用…?」

「はい。あなたに言いたいことがあります」

と、琥珀さんは言いました。

琥珀さんが、奏さんに言いたいこと…?

それは、一体なん、

そう思ったとき、私の思考は、一時フリーズしました。

不測の事態だったからです。

琥珀さんは跪いて、奏さんと視線を合わせ。

奏さんの両手を、しっかりと握り締めました。

「え、え?」

と、握られた手を見下ろして、慌てる奏さんに。

「緋村奏さん。私の恋人になってください」

と、琥珀さんは言いました。

これには、私と奏さんのみならず。

傍で聞き耳を立てていたクラスメイト達も、時が止まったようにポカンとしていました。