「あ、そ、そうだ。瑠璃華さん、これ」

と、奏さんは言いながら、透明なクリアファイルを手渡しました。

「何でしょう?」

「休んでた間のノート。ルーズリーフに書いておいたから」

と、奏さんは言いました。

取っておいてくれる、と言っていましたね。

「瑠璃華さんだったら、少々休んだところで、授業に遅れることはないと思うけど…一応」

「ご親切に、ありがとうございます」

「どういたしまして」

と、奏さんは言いました。

そうでした。

私も、奏さんに渡すものがあったのです。

「奏さん、こちらを」

と、私は言いながら、紙袋を差し出しました。

「?何?」

「お土産を持って帰ると言っていたでしょう?」

「あ、本当にお土産持ってきてくれたんだ…」

「はい」

と、私は頷きました。

これぞ、有言実行ですね。

「ありがとう。…これ、中身は何?」

と、奏さんは聞きました。

よくぞ聞いてくれました。

「久露花局長秘蔵の、高級チョコレートです」

「え」

と、奏さんは紙袋を持ったまま、固まりました。

…?

「大丈夫ですか?」

「いや、それはこっちの台詞なんだけど」

と、奏さんは言いました。

「え?これ、瑠璃華さんのお父さんのチョコレートなの?」

「久露花局長が、こっそり鍵付きの引き出しの中に隠していた、秘蔵の高級チョコレートです」

「それ、ちゃんと本人に断って持ってきたの…?」

「バレたら、烈火のごとく怒るでしょうね」

「無断で持ってきちゃったの…!?」

と、奏さんは愕然として呟きました。

「今頃、お父さん…局長さん、泣いてるよきっと」

「気づいたら、泣くかもしれませんね」

「今すぐ返しておいで…と言いたいところだけど…。今更どうしようもないから、せめて有り難くもらうよ…」

「はい、そうしてください」

「そして瑠璃華さんは、今度局長さんに会ったとき、ちゃんと謝ろう」

「分かりました」

と、私は答えました。

久露花局長。

チョコレート、ありがとうございました。