「…あのさ、瑠璃華ちゃん」

と、局長は言いました。

箸と、お茶碗をテーブルに置いて。

「はい。何でしょうか」

「一体どうしたの…?いきなり料理なんて初めて…」

と、局長は聞きました。

私が料理を始めた、その動機について聞きたいようです。

「それには理由があります。まず昨日私は、碧衣さんに…1110番に呼ばれて、彼の家を訪ねました」

「あ、そうなんだ…」

「はい、そうです。そこで私は彼に、手作り料理を振る舞われました」

と、私は説明しました。

「へぇ、碧衣君が?凄いね、偉いなー…。料理を始めるなんて。彼、やっぱり人間に溶け込む適性があっ、」

「どうにも、紺奈局長に惚れ薬を仕込む為に、料理の練習をしているらしく。その実験台の為に、私を呼びつけたそうです」

「…紺奈局長、今頃大丈夫かな?」

と、局長は言いました。

何故か、とても遠い目をしていました。

きっと気のせいでしょう。

「そこで、後学の為にも、我々アンドロイドも料理が出来た方が良い、という話になりまして」

「う、うん…」

「レシピ本を借りてきて、最初に開いたページに載っていたのが、このメニューです」

「あ、それがお茶漬けだった訳だ…」

「理解して頂けたようで何よりです」

と、私は言いました。

ここまで長々と説明して、ようやく経緯を理解してもらえました。

「私の初めての料理…。成功したようで良かったです」

と、私は言いました。

私にも、料理をするという、人間的なスキルがあったと判断しても良いでしょう。

これで、二学期に調理実習の授業があったとしても、困ることはありませんね。

受けて立ちます。

と、思いましたが。

「しかしお茶漬け…。いや、お茶漬けも立派な料理なんだけど…」

と、局長は言いました。

納得の行っていない様子です。

何か問題でもあるのでしょうか。

「何かご意見がありますか、久露花局長」

「あ、いやないよ?ない。うん、ここは褒めよう。初めてにしてはよく出来てると思う。頑張ったね、瑠璃華ちゃん」

「ありがとうございます」

と、私は言いました。

やはり、私には適性があったと判断して良いようです。

良かったですね。

「では私はこのまま、友人に手料理を振る舞ってきます」
 
「え?ちょ…。え?」

と、局長は言いました。

目を丸くして。

…何か面白いものでも見えたのでしょうか。

「ふ、振る舞うってこれ?お茶漬けを?」

「はい。記念すべき、最初の料理ですから。ここはやはり、友人として、私の手料理を味わってもらいたいと思います」

「…」

「…何か、問題がありますか?」

「…いや、ない…。ない…とは思うけど…」

と、局長は言いました。

…けど?

「…好きな女の子から、初めて作ってもらった料理がお茶漬け…って子は、世の中広しと言えど、なかなかいないんじゃないかな…」

と、局長は呟きました。

発言の意味は不明ですが、ともかく局長からもお墨付きを頂いたので。

私は早速、この足で、彼のもとへ向かうことにしましょう。