私は昨日、碧衣さんの勧めで、『猿でも分かる!初心者の料理』という本を借り受け。

二学期に待ち受けているかもしれない、調理実習に備え。

アンドロイド生で初めての、料理作りに挑戦してみました。

その成果を、是非とも、私の創造主であり、保護者であり、親である久露花局長と。

そして、第4局の副局長である、朝比奈翠(あさひな みどり)副局長にも見てもらおうと。

こうして、わざわざ『Neo Sanctus Floralia』第4局まで、料理を運んできました。

宅配デリバリーですね。

きっと、お二人共喜んでくれると思ったのですが。

何だか、私の思っていた反応とは違うような気がします。

「局長、何か不明な点が?」

「え?いや、あの…」

と、局長は言い淀みました。

昨日、いざと開いてみた本のページ。

そこに載っていたメニューは、ご覧の通り。

お茶漬けでした。 

なので私は、お茶漬けを作ってみました。

お茶が冷めないよう、きちんと魔法瓶に入れて持ってきました。

これも心遣いですね。

私に心はありませんが。

「それとも、局長はお茶漬けをご存知ないのでしょうか」

と、私は聞きました。

その可能性は失念していました。

でも、充分有り得ることでしょう。

何せ久露花局長は、無類の甘党で、前世はきっとカカオ豆だったんだろう、と思うほどのチョコレート好きです。

お茶漬けという、砂糖を使わない食べ物は、そもそもご存知ない可能性があります。

食べたこともないのかもしれません。

だとしたら、先程から局長が、何やら反応に困っている様子なのも、頷けますね。

「大丈夫です、局長。それはお茶漬けという食べ物で、白米に出汁、海苔、あられ、梅干しをトッピングしてお茶をかけた食べ物です。ちゃんと食べられますので安心してください」

「いや、まぁ、うん。お茶漬け自体はちゃんと知ってるんだけどね?」

と、局長は言いました。

なんだ、良かった。知っていたんですね。

なら、話は早いです。

「では、どうぞ食べてみてください」

「あ、あぁ、うん…。いただきます…」

「はい、どうぞ」

と、私は言いました。

局長は、なんとも言えない微妙な顔で、お茶漬けを啜りました。

きっと、普段チョコレートばかり食べているせいで、他の食べ物がなかなか受け付けないのでしょう。

「どうでしょう、味の方は」

と、私は聞きました。

「うん…あの、お茶漬けだね…」

と、局長は言いました。

感想ありがとうございます。

それでは、次に。

「副局長はどうでしょう。味はどうですか?」

「えっ。あ、はい。えぇと、美味しいです…けど…」

「…けど?」

「あっ、いや何でもないです…」

と、副局長は言いました。

そうですか。

何はともあれ、味は美味しかったようで、何よりです。

私のアンドロイド生初の料理は、ちゃんと成功したようですね。