諦めかけていた僕に、駅員さんは声をかけてきた。

「君は幽霊が見えるのかい?」

「はい。突然現れたんですけど、せっかくなので僕たちと同じように過ごせたら楽しんでもらえるかと思って…」

駅員さんは難しい顔をして、何かを考えていた。

「幽霊だけど、お客様か…だったら切符代をいただいてもいいのかな?」

考え込んで曇っていた顔は晴れて、優しく対応してくれた。

「ありがとうございます!」

僕たちは声を揃えてお礼を伝えた。

「ところで君、ほかの幽霊って見ることはできるのかい」

叶のように少し透けている程度なら、今までにも会っていて気づかなかった可能性もある。

でも認知できていないから見れないのかな。

「多分、いまいる幽霊だけです」

「そうか…」

駅員さんは少し悲しそうだった。

「なにかあったんですか?」

僕は優しい駅員さんの力にもなりたかった。

「いや、昔よくこの駅を使っていた女の子が急に来なくなって。娘だったんだけれど…もちろんどこかで元気に暮らしてくれていればいいんだけど、もしかしたら亡くなっているのかもと思ってね。もう一度…もう一度だけ娘と話したくて…」

話すうちに顔色が悪くなる駅員さんの姿を見て、娘さんを大切に思っていたということが理解できた。

力になりたいけど…僕はその子を知らない…

「そうだったんですね」

話を聞き、隣を見ると美月は少し泣きそうになっていた。

叶の目も少し潤んでいた。

「すまないね。こんな話を聞かせてしまって」

そう言いながら駅員さんは切符の処理をしてくれた。

「降りる駅にも連絡しておくから、安心してお使いください」

いつもの対応モードといった形で、丁寧な対応をしてくれた。

お礼を言って通ろうとしたとき、駅員さんがもう一度声をかけてきた。

「あ、ちょっと待ってね」

急いでペンを走らせて、一枚のメモを僕に渡してきた。

「これ僕の連絡先、幽霊さんとまた電車使う時は連絡して。休みでも君たちの対応だけはしてあげるから。うちには頑固な駅員が多いから。あと、お金は乗る時に決めてくれればいいから」

そういって連絡先のメモを僕に渡すと、

「行ってらっしゃい」

と大きく手を振ってくれた。

僕たちも手を振り返してから、駅のホームに向かった。

「優しい人だったね。でもあの話…」

僕がそう言うと、美月がつらそうに言葉を繋いだ。

「複雑な事情があったんだろうね。離婚しちゃったとかかな。娘さん元気だといいね…」



少し寂しい駅のホームには、うるさいぐらいの静寂だけが響く。