「あの~どこか行くんじゃないの?疲れてるなら今日は帰る?」

僕と美月が休んでいるとき、叶は申し訳なさそうに聞いてきた。

「そうだった!少し急ごう。二つ隣の駅だし、すぐ行けるけど」

僕はベンチから立って、切符代の準備をし始めた。

それを見て美月も準備を始めた。

「叶さんってどうする?一応お金払う?」

「私はいいよって、私が言えることじゃないから、二人に任せるよ!」

「とりあえず改札に向かおう。歩きながら考えるよ」

僕たちは駅の改札に向けて歩き出した。



改札までの少し長い駅の一本道を三人で歩く。

駅の壁には、広告がびっしりと貼られていた。

景色の写真が多く、海や草原など見晴らしがよいものが多かった。

「叶さん、いつか一緒に行こうよ。きれいな場所たくさんあるよ!」

「うれしいなぁ。でも寿命の30秒がいつ来るか、わからないしな~。いけたら行こうね」

僕はそのまま美月に伝えた。

「そっか。幽霊にも寿命か…修くんから聞いたよ。なら早めに行こ!もうすぐ、あと一か月ぐらいで夏休み始まるし!」

叶が現れた日は6月16日だった。

光が見えたのは6月15日だったけど。

そして夏休みは7月20日から始まる。

それまでいてくれれば、いろんなところにたくさん連れて行ってあげたい。

30秒がそこまで持つだろうか?

「絶対行こうよ。叶。どこにだって連れて行ってあげるから!」

僕は叶に言ったら、一瞬険しい表情をして見せた。

その表情は本当に一瞬で、すぐにいつもの笑顔に戻って

「楽しみ。どこに連れて行ってもらおうかな~」

と言った。

叶自身は自分が長くないことに気づいているのだろうか。

30秒のリミットはもう近いのだろうか。

僕の頭は、叶に対しての疑問で埋め尽くされていた。



切符売り場に着き、僕と美月は電子マネーのチャージを行った。

そして叶の切符だが、買うことにした。

「私の買うの?いいよ~駅員さんには申し訳ないけど」

「いや買おうよ。できるだけなんでも一緒にしよう」

僕はそう伝えて、切符を購入した。

この時間の駅はだいぶ空いている。

駅員さんも退屈そうにあくびをしていた。

僕は叶の切符をもって、駅員さんのもとに向かった。

「修くんどうするの?」

「手動で切ってもらおう」

駅員さんの目の前まで行くと、

「なにかご用ですか?」

と少し眠そうな声で尋ねてきた。

「すみません。この切符の処理をお願いします」

「お客様のですか?でしたら改札機に入れていただければ、問題ありませんよ」

駅員さんには簡単にだけれど、正直に話すことにした。

「いえ、僕の友人のための切符なんです。幽霊なんですけど」

正直に伝えると、駅員さんはポカンとした顔をしてしまった。

やはり信じてもらえない。

子どもの戯言だと流されてしまうだろう。