準備が整うといよいよ本番の声がかかり、先程のリハ―サル通りのシーンが演じられる。
日が暮れてしまうと前後のシーンと繋がらなくなるので、今日の撮り分はこれが最後。
目にも留まらぬ速さのアクションシーンを4台のカメラで余すところなく撮影しているのを、私を含め現場の誰もがじっと静かに見つめていた。
「なんつーか、みんな持ち上げ過ぎじゃない? あいつのこと」
静寂を壊すように吐き捨てられた声がすぐそばから聞こえ、視線をそちらに向けた。
私の隣で面白くなさそうにカメラの向こう側を見ているのは、本庄さんと全く同じ真っ黒なロングコートを羽織った長身の男性。
今をときめくイケメン俳優、早瀬稔さんだった。
本庄さんと同じくらいの身長だが、顔立ちはまるで違う。
男らしく精悍な印象の強い本庄さんに比べ、早瀬さんは甘めなルックスで、今は役作りで黒髪だけど普段は明るい茶髪のイメージ。
あまり芸能界に興味がない私でも知っている彼の出演作は、女子高生と恋をする教師役だったり、ひょんなことから同僚と同居することになるエリート銀行員の役だったりと、女性向けで恋愛色が強めだった。