入念な打ち合わせとリハーサルを重ね、ついに本番。

薄暗い廃ビルの立体駐車場内を、俺が乗るバイクを追い詰めようとする三台の車とでカーチェイスするシーン。

さすがに緊張でグローブの中の手のひらにじわりと汗が滲む。

いくら訓練を積んできたとはいえ、バイクスタントに転倒はつきもの。

しかし良いシーンにするため、良い映画にするため、さらにはさくらをこの手で抱きしめるため。

絶対に失敗するわけにはいかない。

スーパースポーツと呼ばれるスタントに特化した車種のバイクに跨り、エンジンをふかす重低音が響く中、敵役の車にもカースタントマンが乗り込み、監督から「アクション」と声がかかった。

打ち合わせ通りに周回しながらウィリーで敵を煽り、徐々にスピードを上げていく。

何度も急停止しながら方向転換し、挟み撃ちされたところをすり抜けて2台の車同士をクラッシュさせ、ロールオーバーする横をギリギリの距離で走り抜ける。