だからというわけではないが、これもなにかの縁だと思い『MIZUKI』に入社を決めた。
やるからには中途半端は許せない質な俺は日々訓練に励み、憧れであった龍二さんのようなスーツアクターを目指した。
昔から父が会社を経営していることと、母親に似た顔立ちのおかげで女性から声をかけられることが多かった。
学生の頃はともかく、今は人の外側しか見ない彼女たちに辟易し、ここ数年恋人と呼べる存在はいない。
しかし『MIZUKI』に入社したことで、今周囲にいる人間は俺が大手企業の御曹司だということを知らないし、女受けするといわれる顔を隠して仕事をしている。
社内は限られた社員しかおらず、アットホームでいい人ばかり。今まで感じたことのない居心地の良さだった。
中でも龍二さんの娘であるさくらとは、ヒーローショーで一緒に仕事をする機会が多かった。
くりっとした瞳が印象的な顔立ち、ころころとよく変わる表情、何事にも一生懸命で溌剌とした彼女に惹かれるのに時間は掛からなかった。
特撮好きだという彼女は『ショーのおねえさん』にぴったりで、舞台上で輝くさくらは何よりも眩しく映る。